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3章 12話 幸せな朝
ちゅんちゅんと聞こえる鳥の囀りで目が覚めた。横にいるシヴァさんの寝顔を覗き込む。寝ている顔も息を呑むほど美しい。
体を動かし肘をつけて頬に手をやるとじーっと見る。昨日の夜の事を思い出しただけで顔が真っ赤になるほどだ。寝ようとしてベットに二人で横になって話をしながら何度もキスを繰り返した。触れるだけのキスを何度も何度も。
「えへへ」
新枕が成功したかどうか怪しいけど、これで僕とシヴァさんは夫婦なんだ。そのことがとても嬉しい。にへらにへらと笑っていたらいきなり口を塞がれた。
「おはようございます、リトさん」
「お、おはよう!」
不意打ちのキスは驚いたけど、してやったりの顔のシヴァさんが可愛い。触れ合うだけでも幸せだと言っていたシヴァさん。シヴァさんの言った通り、こうやって戯れているだけでも幸せだ!
「昨日シヴァさんが言ってたこと」
「こうやっているだけでも幸せ、と言ったことですか?」
手を繋ぐ。キスをする。それだけでも本当に幸せ。
これから先の長い長い人生において僕とシヴァさんは同じ道を歩く。僕は歩くのが遅いからシヴァさんが僕に合わせて同じ歩幅で歩いてくれる。足の長いシヴァさんに悪いなって思うけど、でも、どこでも一緒に行けるのはとても幸せ。
「僕、幸せだよ」
「私も幸せです」
ちゅっと触れるだけのキスをして横になりシヴァさんをじっと見つめる。カーテンの隙間から入ってくる光が朝を知らせてくれる。幸せな朝を後何度シヴァさんと共に迎えるのだろう?
「リトさん?」
僕の頬をぐいっと拭ったシヴァさんが心配そうに僕を見る。流れている涙は歓喜の涙。
「幸せ過ぎて泣きたくなったの」
こうして抱き合って眠って朝を向かえ、おはようと挨拶をする。それだけの事が涙を流すほど嬉しい。
「私も幸せです。愛してます。リトさん」
「僕も」
近づいてきた顔に答えるように口を閉じるとノックの音が部屋に響いた。
***
部屋の中に入ってきたキトが部屋を見渡し、ベットの横にある棚の上を見て溜息を吐くとベットまで近づいてきた。そして僕とシヴァさんをジロジロと見てまたはぁと大きな溜息を吐く。
「しなかったんだな……」
僕ではなくシヴァさんを見ていった言葉の意味が分からなくてシヴァさんに顔を向けるとシヴァさんは苦笑を落としていた。
「リトに色気が無かったか?」
キトに言われた事でキトの言っている意味が分かって顔が赤くなる。
「違うよキト! 僕の事大事だからなの!」
むっとした顔をした僕を見たキトが僕を上から下に見ると器用に片眉を上げ「お前はまだ子供だ」と言う。それにもまたむっとして何か言おうとしたらシヴァさんが僕の肩を宥めるように撫でた。
「いいえ。リトさんに煽られて一瞬いいかな、とも思いましたが寸でで止めました。あのまま迫られてたら理性を保つのは危うかったかもしれません」
「ふむ。一応の色気はある、と……」
「キト!」
「新枕は大事な儀式だと言っただろ。リト」
失敗したってことなのかな……。僕シヴァさんと夫婦になれない?
僕の横に座って僕の手を取ったシヴァさんを見るとシヴァさんがにこりと微笑んでくれる。
「僕とシヴァさん夫婦になれない?」
「いや、婚姻の儀も、形だけとは言え新枕もすでに終わっているからリトもシヴァも夫婦だ」
「僕達夫婦?」
「昨日の婚姻の儀が終わった時点で神に夫婦として認められている」
「何を心配しているのかは何となく分かりますが、リトさんは必ず守ります。”氷の狼”と言う二つ名は伊達ではありません」
「ま、砦内で三、四番目に強いと言われているシヴァの嫁に手を出すやつもいないか」
腕を組んで少し逡巡し、結論を出したキトが僕を見る。
「リト、俺はシヴァに話があるから着替えたら下に行ってくれ」
そう言ってキトがソファーに掛けたローブを手に取り僕の肩にかけると立つように促し、部屋の箪笥から着替えを出して僕に渡してくれる。
それにしても話って何の話だろう?
「僕がいたらだめな話?」
夫婦に関する大事な事だったら僕も聞いておきたい。そのことをキトに伝えるとキトは首を横に振った。
「夫婦の大事な話は夫婦でするものだろ? 何故俺とする。それとは別の話だ。いいからリトは着替えて下に降りなさい」
無造作に僕の服を剥ぎ取りシャツを僕に被せてくる。僕はキトにされるままになっていたけど、シヴァさんと夫婦になるならちゃんとしないと駄目だとキトに言われた事を思い出してキトが着せようとしてくるズボンを奪い取った。
「僕、ちゃんと着れるよ」
「本当か?」
「大丈夫だよ。これからは料理だって、家の事だってちゃんと覚えるから」
ジトが言っていたっけ。夫の心をつかみ続けるには相応の努力がいるって。料理だって最近教えてもらってはじめたからまだまだだけど、そのうちシヴァさんに美味しいねって言ってもらうんだ!
「あまり気負うと疲れるぞ? リトなりに進めばいい。時間はたっぷりとあるんだからな」
ズボンを履いて最後に髪紐を直しているとキトが見かねたのか僕の髪紐を結いなおしてくれる。
「まずは髪紐をちゃんと結えるようになろうな」
ささっと髪紐を結いなおしたキトにそんな事を言われて僕はずーんと落ち込んだ。
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