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3章 13話 魔法
リトさんが出て行ったドアを見ていたキトさんが振り返り、私の姿を目に入れると私にソファーに座るように促した。
私の真向かいに足を組んで座ったキトさんは誰の目から見ても美しい。リトさんが言っていたが、保護区内のヴィヌワや護衛についているルピドやリオネラは私を見ていたのではなく、キトさんを見ていたのに違いない。私に向けられる視線は恐怖以外はない。
ルピドやリオネラが見惚れる程の美貌を持っているキトさん。すらりと長い手足に、細く見えるけど服の下には戦ってきた者の相応の筋肉がついてるのだろう。身長は私とあまり変わらない位なのに、腰の位置が私より若干高い。そのことが少し悔しい。けども、将来のリトさんはこんな感じに美しくなるのだろう。目鼻立ちは二人ともそっくりだ。
「リトは甘やかされて育ったからこれから覚えることが沢山ある。だから手助けをしてやって欲しい」
「言われなくてもやりますよ。と言うか、リトさんには家にいてもらうだけでも充分です」
「そう言う訳にもいかないだろ。夫婦になった時点で護衛から外される事も有り得る」
「そこらへんは大丈夫です。種族存続機関からは護衛継続の要請がきていましたから」
「ふむ。それなら、いいのか……? いや、よくない。リトを甘やかすのはリトにとってもよくない」
「そう、ですか……」
私としてはリトさんには何もせずに家にいてもらうだけでいいのに……。
洗濯や掃除だって私がするし料理なんてさせたくない。上手い下手ではなく、如何なる傷もリトさんの体につけたくない。何から何まで私が世話をしたいと言うのに。
「リトはシヴァに何かしてやれることを楽しみにしている」
そう言われてしまっては何も言えなくなってしまう。リトさんの楽しみを奪うのは私の本意ではない。
「それよりも、こんな話がしたくて私を残したのですか? そうなのであれば私はリトさんの所に行きたいのですが……」
どうでもいい話で私を引き止めたりはしないだろう。もっと重要な話があるはずだ。じっとキトさんの瞳を見つめ続けるとキトさんが少し息を吐いた。
「リトの能力についてだ」
「リトさんの能力?」
組んでいた足を降ろし腕を組んだキトさんが「何から話せばいいのか」と呟いてどこか遠くを見るような目をし細く息を吐くと私を見つめる。
「リトはヴィヌワの中でも特殊で、風の神子と呼ばれている。ヴィヌワの皆がリトを敬うのは神に授けられた能力をリトが持っているからだ。リトの真名の意味は”風神に愛されし子”」
「風神に愛されし子……。回復魔法が得意だとリトさんが言っていましたが、それですか? なら、何も特別ではないように思えます。回復魔法はヴィヌワだけではなくキャリロも使えるんですから」
「キャリロが回復魔法を使えるのは知っている。ただの回復ならば能力なんて言葉は使わない。リトのは能力と言う言葉そのもの」
「能力と言う言葉、そのもの……?」
「そうだ」
キトさんが相槌を打った時、こんこんとノックの音が部屋の中に響いた。
「入れ」
ドアを開けて入ってきたのはキトさんの補佐をしているジトさんで、私とキトさんが向かい合いに座っているのを見て後ろを振り返り静かにドアを閉めて部屋に入ってきた。
「もうご説明は終わられましたか? キト様」
「いや、まだだ。どこから話たものかと思ってな……」
「シヴァ様には全てお話したほうがよろしいかと思います」
「全て、か?」
「はい、全てです。包み隠さずリト様の能力の事はお話になったほうがよいかと」
「……そうか」
そのまま目を瞑ったキトさんは、ここに来てからも決心がついていなかったらしい。もしや、ヴィヌワの者でも一部の者しか知らない話なのだろうか。
「そのお話はもしかして、ヴィヌワの中でも一部の人しか教えることが出来ないことでしょうか?」
私の問いに目を開けたキトさんがキトさんの隣に座ったジトさんと目配せをしてから顔をこちらに戻した。
「いや、リトの能力はヴィヌワの者は皆知っている」
「リト様の回復魔法は他のヴィヌワと比べて回復量が多いのが特徴です」
それの何が特別なのだろうか? キャリロの中でも回復量が多い者はいるにはいる。探索者のチームが喉から手が出る程欲してチームに勧誘する位だが、別段珍しいものではない。回復魔法に重点を置いて魔法の修行をすれば回復魔法の回復量が多くなると聞いている。
私達ルピドは雷魔法を使う種族。遠距離からの魔法攻撃に重点を置いて魔法の研磨をするか、自身の武器に雷魔法を付与して武器で攻撃するかで魔法の修行内容は変わってくるが、どちらかに特化させる事はルピドの中でも推奨されていることだ。
火魔法を操るリオネラも土魔法を操るベーナもそして水魔法を操るキャリロもそれは変わらない。中にはどちらも器用にこなす人がいるけれども、特化させて魔法を修行した人とでは魔法の威力が違ってくる。
「リト様の回復魔法はただの回復魔法ではないのです。再生の魔法といいますか、何と言いますか……」
「再生の魔法?」
そんなの聞いた事がない。
「リトは切断された体を再生することが出来る。そんな事が出来るキャリロがいるか? いないだろ?」
「再生……? いやいや、そんな事出来る人なんている訳が……」
「リトは、出来るんだ」
小さく言ったキトさんの言葉に私の心臓がことりと音を立てた。
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