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3章 18話 お出かけ

「さ、行きましょうか。リトさん」  朝食を食べ終えて部屋に戻った僕は、お出かけする為に少しだけおしゃれをする。最近僕と同年代の子の間で服にブローチと言う銀細工で出来た装飾をつけるのが流行ってるらしい。僕はシヴァさんからもらった物を襟あたりにつけると声をかけてきたシヴァさんに振り返った。  夫婦になった僕とシヴァさん。婚姻の儀で使った頭に飾っていた銀細工の髪飾りを加工しなおす為に、ついている赤石と青石をはずしてもらうのだ。  髪紐を作るのはヴィヌワだけど、銀細工を加工し鉱石を外したりつけたりするのはキャリロしか出来ないから、キャリロの銀細工工房に行って外してもらう為にシヴァさんと二人で出かける。   「ねぇ、シヴァさん。僕、変じゃない?」 「可愛らしいですよ」 「えへへ」  ヨトが準備してくれた服に着替えてシヴァさんの目の前でくるりと回る。キトが着せてくれたのは部屋着と言うもので、それで外に出るのはよくないとヨトが準備してくれたのだ。  夏も近づいているから、今日の服はちょっとだけフリルがついた七部丈の白いシャツと淡い青のキュロット。肩から提げている鞄はとってもちっちゃいポシェットと言うものらしい。  ヴィヌワの村では、色とりどりの服なんてなかったしお洒落をするって言う文化なんてなかった。麻の服を染色するのは時間がかかるから行事で使われる服や髪紐以外は染色しない。絹蜘蛛からとれる糸はとても貴重なものだから婚姻の儀の服や葬儀の装束にしか使われない。  でも、砦にはいっぱいの人がいて、裁縫を専門とする服飾職人がいるし、染色専門の職人もいるから色々な色と形の服がいっぱいある。革を染色する技術があることが一番驚いた。獣や魔物の皮をなめして革にして染色するなんてヴィヌワの中でおもいつく人とか、きっといない。だから、砦内の探索者の革鎧や鎧下は色んな色のものが多いんだな。  最近のヴィヌワの流行はブローチをつけることもそうだけど、おしゃれな服を着てお出かけすることだ。  仕事の時は肌色の麻のシャツにズボンだけど、仕事が終わったら皆好きな服を着て過ごすのがよしとされるようになってきた。  ジトが買ってきてくれた色のついたシャツを着ている僕を見た若い子が僕の服装とかを真似て着飾るようになったのが発端らしい。  ヨハナさんがヴィヌワの中だけでお金を使うのじゃなくて砦内の店で買い物をすることは経済が回っていい事だと言っていたけど、難しくてよく分からなかった。 「行こう。シヴァさん」 「はい」  僕とシヴァさんは手を握って部屋を出た。 ***  訪れたキャリロの銀細工工房は砦中央通りより入り組んだ道を入ったところにあった。  店舗は普通の民家に見える外見をしており、隣にある家と大きさも大して変わらないから、そうと言われなければ通り過ぎてしまう自信がある。  この銀細工工房”シリカ”はある意味砦内でも有名だそうだ。  何で有名かと言うと。 「売る気はねぇよ。帰りな」  売る人を選ぶ事で有名なのだそうだ。頑固な性格とは違って作る銀細工は繊細で、僕とシヴァさんが作ってもらった髪飾りも豪華な感じはしないけど、繊細かつ品がある。   「て、なんだシヴァか。おーい、茶を用意してくれー!」  振り返って僕達を見た店主さんが店舗と民家の境の入り口に向けて大きな声で叫ぶと僕とシヴァさんを近くにあるソファーに座るように促した。  僕の目の前に座っているキャリロの人も、キャリロ族と言うだけあって見目はとても美しい。  顎のところで切り揃えられた髪は鉱物の金と同じ色。ぱっちりした瞳はやや垂れ目で温厚な感じに見える。だけど、銀細工に関してはとても頑固になるらしい。 「いらっしゃいませ」  奥から出てきた人が僕とシヴァさんの目の前に花茶を置くと盆を持ったまま店主さんの隣に座った。その隣に座った人はシヴァさんと同じルピド族。だけど、髪と耳の色が随分違う。シヴァさんのは銀色の髪に銀の耳をしているけど、この人のは黒色だ。  たしかシヴァさんが言ってたっけ? ルピド族も三つの種族があるって。銀髪と銀耳のジェン・ルピド(銀狼)。黒髪と黒耳のニグラ・ルピド(黒狼)。灰色髪と灰色耳のシニス()ルピド()。この人の特徴を見る限りニグラ・ルピドだ。 「遠いところをよくお越しになりました。歩いている間熱かったでしょう。どうぞ、お飲み下さい」  声は男性とは違って高く、鈴が鳴った様に美しい。  猫の様な目と小さな顔。背は高く筋肉質。だけど、服の上からでも分かる丸みのある体。この人、女の人だ。   「そっちの坊ちゃんは初めてだな。俺はここシニスの店主エイクだ。こっちは俺のカミさんのマイナ。これからも御贔屓にってな。がははっ」  「初めまして、ワ村のリトです」 「お? なんだ? こんな小さいのに挨拶できるんだな。偉いぞ坊主」  なんでキャリロの人って僕より背が小さいのに、僕を子供扱いするんだろ……。 「僕、これでも成人してます!」 「ええ!! 坊主、嘘言っちゃいけねぇぞ? 大人ぶりたいのも分かるけどな」 「本当に成人してます! この髪紐見て下さい!」 「!」  こう言うやりとり何度すればいいんだろう。砦に来るまでもそうだったけど、砦に来てからも中央通りとか歩いているとキャリロの人達は僕に声を掛けて飴とかお菓子を渡してきたりする。成人してるって言っても信じてもらえなくて、髪紐に気づいてやっと信じてくれるって感じだ。  僕って貫禄無いのかなー……。  エイクさんが目をこれでもかっておっぴろげて驚き、わたわたとしたと思ったら目の前の花茶を一気に飲む。 「こ、こりゃ、悪かった」  エイクさんの隣のマイナさんは僕を見てニコニコしている。 「旦那がすみませんね。どうぞ、お茶をお飲みになって?」  僕の隣でちゃきっと剣を鞘から抜くような音が聞こえたけど、気のせいだと思いたい。

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