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3章 25話 種族会議

「えーっと? 今日の会議はなんでしたかね?」 「今日の会議は行方不明者の捜索の為の緊急会議よ。ポメメさん」  会議が始まってもまったりとした空気が流れたままだ。トナーさんの従者と言う人がお茶を皆に配るとそこかしこで談笑が始まる。  ヴィヌワの会議はもっと殺伐としていて、言葉の応酬があるのに……。なんだろう。この空気。 「あー、そっか。それね。えー、またお金掛かっちゃうんです? 警備隊はどの位の人数出すつもりですか?」  ゆるやかな空気の中商人ギルドのギルドマスターポメメさんが声をあげた。のんびりとした話し方は気が抜ける。  これが、会議の始まりだとはとても思えなかった。 「今動かせるのは八千から一万ってところか?」 「んー、じゃ、八千ってことでお願いします。砦の財務を担当する身としてはあまりお金を出したくないんでね」 「おいおいおいおい。砦がどのくらいの広さか分かってるだろ? 八千は少ねぇよ」 「ここに兵団がいるってことは兵団も人を出すってことですよね? なら、兵団と合わせての数でどうにかしてください」 「どうにかって……」 「えーっと、行方不明者ってあわせて何人でしたっけ?」 「キャリロとヴィヌワ合わせて十三人ってとこかしら」 「ありがとう、ヨハナさん」 「探索の魔道具の整備は終わってます? エイク」 「全て終わっていつでも出せる状態だ。ただ……」 「ただ?」 「冒険者が何組か遺跡に持っていったからあんまり数は無いな」 「どの位の数になるのかしら? 魔道具」 「三十個ってとこだな」 「三十個? 少なすぎません?」 「遺跡から見慣れない魔道具が発掘されたからな。そのせいで大半の探索者が遺跡探索に向かっちまった。おかげでここのとこ素材依頼が捗らないから困ってるんだがな。ヴィヌワはまだ草原には出してはいけないって言うし。こっちとしては早くヴィヌワも草原に出してほしいもんだ」  探索者ギルドのギルドマスターアレクさんがちらりとこちらを見て鼻をふんと鳴らす。  若い子とは違い、即戦力になる二十代から上のヴィヌワは慣れた山で採集や狩をしたがる。草原に出たいと言っている若い子はまだ戦術に長けている訳ではないから戦力にはみなされない。十歳から弓を持つと言っても実戦をするのは十五歳から。僕達ヴィヌワは他の種族と違って大人になるのが遅いと言われた。成人を迎えていたとしてもまだ子供だと。護衛をしているルピドやリオネラから苦情がきたことがあって、今まさに改善をしているところだけど……。  僕は知識も無いし戦力にもならない。村の外の過酷さを、僕達ヴィヌワの子供は知らないのだ。キトやワ村の大人に守られて生きてきたのだと、砦にきてから自覚した。 「リトちゃん、そんな顔しなくていいの。今のはアレクさんの八つ当たりなんだから」 「……?」 「ヴィヌワの数なんてたかがしれてる。リオネラとかルピドとかキャリロの方が数が多いのに、最近では山で狩をしたがるし、さっきアレクさんが言ったように遺跡に向かう探索者が多いの。その点、ヴィヌワは草原のことをあまり知らないから採集にヴィヌワの人を廻せるって考えたんでしょうよ。ヴィヌワが採集してくる薬草ってとっても綺麗だからね。それに、まだFランクの子が多いから依頼は採集依頼が多いしね」  山に珍しいものってあったかな? ヴィヌワが使う薬草は砦の人達も使ってることが多いし、草原の方が薬草の種類も数も多い。 「山に珍しいものなんてないでしょう? それより遺跡ってなぁに? ヨハナさん」 「何言ってるの! リトちゃん! 草原の薬草よりも効果が倍になるのよ! それにね、山にポポロ鳥がいるからそれを狙って行く人も多いの! ポポロ鳥は高級品なのよ!」  ポポロ鳥が高級品? そんなに高いものかな? 村では小麦の方が高かったように思う。でも、砦にポポロ鳥がいないのは驚いた。飼育出来るのに飼育しないなんて。魔牛を草原で飼育しているって言ってたな。それにしても遺跡ってなんだろう?  「ここから十キロのところに古代遺跡があるらしい。何年前の遺跡かは知らないが、そこで取れる古代の魔道具はとても技術の高いものだから砦で高く売れるんだ」 「そうなんだ。キト、古代の魔道具ってどんなものなの?」 「見た目はただの鞄なのに見た目に反して容量が際限なくものが入るアイテムバックだとか、後は魔力放出を抑える魔道具だとか、まぁ、いろいろだ」 「ふーん。魔力放出を抑えるって、僕達の髪紐みたいな?」 「そうだな」 「え? 髪紐? ど、どういうこと? キトちゃん」 「どう言うこととは?」 「魔慮放出を抑える髪紐って何?!」 「髪紐の赤石に魔力の制御と魔力の放出を抑える魔方陣を書き込んでいる」  こそこそと僕とキトとヨハナさんが話していると会議室にいる皆がばっとこちらを見た。特にキャリロの二人の目はらんらんと輝いていてなんだか怖い。  しまった、と言う顔をしたキトを見て何かやらかしてしまかったと思ったその時。 「ポメメ、エイク、今は会議中ですよ。会議に関係ない話は行方不明者がみつかってからするように」  静かな声で言ったトナーさんの言葉でポメメさんとエイクさんの二人が青い顔をしたまま開けていた口を閉じた。トナーさんはにっこりと笑っているのに、なんだか冷気が見えるようだ。 「話がそれてしまったので戻しましょう。オーリ、警備隊は一万しか出せませんか? もっと出せるはずですよね? 兵団からは何人出せます? 調査隊は? それからヴィヌワは?」 「出せるのは出せるが……貧民街の取締りがおろそかになっちまう」 「貧民街の警邏はおろそかにしないように」 「マジか……」 「兵団からは二千」 「第一と第二を合わせて二千ですか?」 「そうよ。第二はそこまで出せないから、第一に頼るしかないわ」 「調査隊は二百ってところかしらね。もっとって言われたら調査に出かけてる者に戻ってきてもらうしかないけど?」 「いえ、数が分かれば結構です」 「ヴィヌワは三十……」 「三十、ですか」 「我々ヴィヌワは若者よりも年寄りが多い。年寄りも出せと言われたら……五百はいくが……」 「お年寄りに出ていただくのはやめておきましょう。それでなくてもヴィヌワは数が少ないのですから」 「そう言ってもらうとありがたい」 「ではこうしましょう。警備隊から一万二千。兵団が二千、調査隊が二百、ヴィヌワが三十。合計で一万四千二百三十。この人数で捜索隊を編成しましょう。ただ、魔道具が足りないのはなんとも……」 「トナー総長多すぎでは? 警備隊は一万もいれば充分だと僕は思うんですけど……」 「お金をケチっては見つかるものも見つかりませんよ、ポメメ。ヴィヌワの子供は我々と違って三百人もいません。その子供が九人も行方が分からなくなっているのです。お金をかけて探しても損はありませんよ。この話はここまで。アレク、遺跡に行っている探索者の中ですぐに戻せるチームはありますか?」 「水鏡の魔道具から通信が入っているのは一組だけだな」 「それでも探索の魔道具が三十一個ですか……」  ふむと言ったままトナーさんが腕を組んで考えこんでしまった。僕はぽんぽんと決まっていくことについて行くことが出来なくてただ見ているだけだった。僕も誰かの役に立ちたい。キトの様にとはいかないけど。僕も誰かの為に。 「ヴィヌワは人の足音を覚えているよ。足音で探すのは駄目なの? 僕はまだ出来ないけど、大人のヴィヌワは風音が使える」 「風音? それは何ですか?」 「耳に風を纏い音を増幅させる魔法だ。俺はこれでだいたい十キロ先の音を聞く」 「十キロ……」  あんぐりと口を開けて驚いている皆を見てキトが首を傾げ「ハナナさんの酒場に来れたのは風音を使ってたからですね」とシヴァさんが遠い目をして呟いた。

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