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3章 26話 風の音
捜索隊は六十一組に編成されることになった。探索の魔道具を持った三十一組と原始的だけどヴィヌワの聴覚とルピドやリオネラの嗅覚で捜索をする三十組。僕はと言うと足手まといになるから捜索隊は辞退したのだけど、キトがいい機会だからと風音の修練をするようにとキトと一緒になって捜索することになった。
ワ村から砦に来る間にやった時、耳が音を拾いすぎて頭痛がして気持ち悪くなった時の記憶が蘇る。
「リトは全ての音を拾おうとするから気分が悪くなるんだ。全部の音でなくていい。今は俺の足音だけに集中しなさい」
「……はい、師匠」
回復魔法はすぐに覚えたけど結界魔法やこう言った回復に関係ない魔法は僕は苦手で覚えるのが遅い。コツをつかんだらどうにかなるけど、それまで時間がかかる。キトはそんな僕を焦らせることなくじっくりと教えてくれる。だけど、こう言う時のキトはとても厳しい。
「リト、もう一回だ」
「はい」
少し気持ち悪くなってきたから止めたらキトがもう一度やるように言ってきた。でもこの魔法を覚えたら皆の役に立つことが出来る。だから絶対覚えたい!
編成が終わるまで待機していることと言われた種族存続機関の待合室で編成が終わるまで僕はキトから風音を習っていた。
***
日が昇る前に始まった捜索は何の成果もないまま昼になってしまった。俺は横にいるリトをちらりと見ると空を見上げる。こうこうと太陽が照り微風が頬をくすぐる。
だと言うのに今日の音は何故かおかしい。風音を使ってもなかなか音を拾うことが出来ない。この位の風ならば、風の音を気にすることなく風音を使うことが出来るのに。不思議に思って音を消す薬や魔道具があるのかヨハナに聞いたら、薬は無いし魔道具は開発もしていないとのことだった。そう言うものは体で覚えるものなのだと。調査隊は足音を極力させないような訓練を受けるそうだが、一般の探索者や兵団等の者は覚えてないことが多いそうだ。
なのに、何故、音を拾えない? 耳に入ってくるのは風の音ばかり。
これではまるで――
「そんなことがある訳が無い」
我らヴィヌワを慈しんでおられる風の精霊様が邪魔しているだなんて……。
「何? キト」
「いや、何でもない」
そんなこと思いたくない。
「キト僕もう止めていい? 気持ち悪くて吐きそう」
服の袖を引っ張られてリトを見ると青い顔をさせて口を手で覆っていた。今日の様な日に無理をさせたらまた熱が出てしまうと思った俺はリトに風音を解除するように言ってから、捜索隊に編成された少し離れたところで捜索しているヒキを見るとリトと同じように顔を青くさせていた。
ワ村の中でもヒキは風音を操るのが上手く俺よりも先の音を聞く。そんなヒキが顔を青くさせているなんて。
「ヨハナ」
「どうしたの?」
「我らヴィヌワは役に立たないかもしれない。耳に入ってくる音が風ばかりだ」
「風なんてそんなに吹いてないじゃない」
「なのだが……あそこにいるヒキを見ろ。あんなに顔色の悪いヒキは初めてだ」
「キトちゃん、あなたも顔色悪いわよ? 大丈夫?」
「大丈夫だ」
「休憩にしましょうか。ユシュ、全捜索隊に通達してちょうだい」
「分かった」
水鏡を取り出したユシュが鏡に文字を書いて伝えているようだ。よろけているリトを支えているシヴァを見ると、シヴァは鼻の調子がおかしいのかしきりに鼻を触っている。
「ちょうどいい時間だしお昼ご飯にしましょ。あたし良い店知っているの」
***
ヨハナに連れてこられた店はこじんまりとした店だった。古いが店内は清掃が行き届いていて綺麗で店の奥から香ってくる料理の匂いがお腹を刺激する。
「いらっしゃいませ」
奥から出てきたふくよかなベーナの女性がヨハナを見てから顔を綻ばせる。
「ヨハナおかえりなさい。お連れさんは皆お友達?」
「母さんただいま。今日はちょっと仕事でね。アレある?」
「同僚さん? じゃぁ、母さんも挨拶しないと」
「母さんいいから。あたしの大好物のアレ。出してちょうだい」
「分かったわよ。ちょっと待っててね」
「今日は奥を使わせてもらうわ。仕事で大事な話があるの」
「そう。分かったわ。料理はすぐ用意するから。皆さんを案内してね」
大きなお尻を揺らしながら女性がキッチンに向かうとヨハナが「付いてきて」と言って店の奥に入っていく。俺とリトとシヴァとユシュはヨハナの背中を追いかけ付いた部屋はどう見ても家のリビングだった。
「好きなところで寛いで。あたしお茶を持ってくるわ」
ヨハナに言われた通りソファーに体を預けるとリトが俺の横に座りきょろきょろと周りを見ている。俺もリトにならい周りを見る。壁には絵が飾られ棚には花が活けられた壷。座っているソファーには不思議な形をした柄のカバーがかけられている。どことなく温かみのあるリビングは心安らぐ。
「内密な話や仕事なんかでよくここを使っているのよ」
ことりとおかれた音に気づいて顔を上げるとヨハナが花柄のカップをテーブルに置いているところだった。
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