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3章 28話 動かない魔道具
雑然としている場を離れ種族存続機関のロビーの端にある何却かある椅子に座る。
「紹介するわね。こちらは種族存続機関調査隊の総隊長シドウよ」
「おう。俺が調査隊総隊長のシドウだ。よろしくな」
軽く片手をあげて紹介されたシドウはヨハナが持ってこさせた茶を啜るとがははと笑った。
「シドウ、こちらがワ村出身でヴィヌワを纏めているキトちゃんとリトちゃんよ」
「そんなのは知っている」
「知っているのは分かっているけど、一応ね?」
シドウに向けてぺこりとお辞儀をすると俺の横に座っているリトが慌ててお辞儀をしてから茶の入ったカップに手を出した。
「で? 捜索の方はどこまで進んでるんだ?」
「どこまでって言われても……まったく進んでないわ」
「全く進んでない? 一万もの人数がいてか」
「一万四千二百三十よ」
「こまかいことはいいんだよ。まったく? これっぽっちも?」
「ええ、そうよ」
ちっと舌打ちをしたシドウが懐から出した水鏡に何やら書き込んだと思ったらその通信の魔道具である水鏡をバンバンと叩きだした。
「くそっ 壊れちまってる。探索の魔道具も壊れて動かねぇってのに」
シドウの口から出た言葉にここにいる全員が顔を上げてシドウを見る。
「探索の魔道具が壊れてる?」
俺の呟きにシドウが顔を上げて俺達を見渡す。
「俺が砦に着いた時に丁度探索者が帰ってきてかたら分捕って使ったんだが、うんともすんとも言いやがらねぇ」
がりがりと頭を掻いてはぁと大きなため息をつくと立ち上がってずんずんとどこかに歩き始める。
「ヨハナ、ついてこい。トナーのところに行く」
「え、ええ。分かったわ。貴方達もついてきてちょうだい」
リトと顔を見合わせそれからシドウを見ると、すでにその背中はどこかの扉に入っていくところだった。
***
「困ったものですよ。捜索隊に渡した魔道具は全て使い物になりませんしルピドやリオネラの嗅覚、ヴィヌワの聴覚、キャリロの視覚がほとんど利きません」
シドウが入った部屋は、捜索隊本部の部屋の横にある執務室みたいなところだった。何個もの机や椅子が並び部屋の壁には本や書類がぎゅうぎゅうに詰められた棚。机の上の書類などは机からはみだし落ちそうだ。
「あん? どれも利かない? じゃ、どうやって捜索すんだ」
「聞き込みと足でどうにかするしかありません」
「まじかよー……」
そして、この部屋でのシドウとトナーのこの会話。三十一組に渡された魔道具は全て操作できず、種族特性である五感がまったくと言っていいほど機能していない。探索の魔道具だけでなく、捜索隊が使っている通信の魔道具も一応は動くが、通信をしようとすると何かが邪魔をしているのか動かないらしい。
「まいったな」
「調査隊の基本ね。足で動けって」
「魔道具に頼ってばかりでしたから、これを期に鍛錬しなおせと言うことですね」
「ま、道具だしいつかは壊れるもんだが、今じゃなくてもよぉ」
がっくりと肩を落とすシドウの肩にトナーが手を置いて慰めている。
「さぁさぁ、時間は無限ではありません。シドウ、ヨハナ、すぐに捜索に戻ってください。私は魔道具の故障の原因を調査します」
「……分かった」
「了解よ」
シドウとヨハナが部屋を出ていくのを見て俺達もその後に続いて部屋を出た。
***
日が、暮れていく。
登っていた太陽が西に沈んで行くのを見ながら俺はため息をはいた。昼に重大なことが分かってからと言うものの、捜索は遅々として進まない。俺達が任されていた中央通りの一角で最後にと寄った店での聞き込みはからぶりに終わった。
皆の顔を見渡してみれば疲労が濃い。リトは歩き疲れたのか地べたに座ってしまった。
「リト、熱は?」
「多分、無い。けど、疲れたよ。キト」
リトの言葉を信じていない訳ではないが、心配になった俺はリトの首筋に触れる。
「ふむ。無いようだな」
「……うん」
一日中歩きっぱなしではさすがの俺でも疲れる。だが、文句も言わずよくついてきた。リトの横にいるシヴァを見れば、ぱんぱんになってしまっているリトの足をマッサージしているところだった。
「よくやったリト」
くしゃりと頭を撫でて褒めてやれば、目を細めて笑った。
「今日はもう終わりにしましょう。明日も朝からの捜索になるから早く帰って疲れを癒した方がいいわ。リトちゃん、無理はせず、明日はお休みして?」
「やだ。僕も探す」
「体が弱かったんだから無理をしたら体を壊しちゃうわ」
「やだ」
困った顔をしてヨハナが俺を見るが、誰に似たのかリトは案外頑固だ。こういう時のリトは誰が何を言おうが言うことを聞かない。魔法の修行中も言うことを聞かないことが多々あった。
「リト、帰ったら丸薬を飲んでおきなさい。明日の朝熱が出ていたら捜索は断念すること」
「はい」
リトの疲労を取ろうとしているのだろうシヴァを見れば、こちらも困ったように笑っている。
「明日、もし熱がなければ私がおぶってさしあげますよ」
にこりと笑ってシヴァがそんな事を言ったおかげでリトは満面の笑みだ。額に手をあててはぁとため息を吐けばリトが「えへへ」と照れたように笑った。笑ったが、その顔はすぐに曇ってしまった。
「草原にでも出ちゃったのかな?」
「それは無いわ。山に行くときの門のように草原に出るときの門も警備隊が警備しているからヴィヌワが出たらすぐに連絡が入るはずよ。それに、門からじゃないとここの砦から外に出ることは出来ないわ」
「そうなんだ」
「そうよ。だから、きっとこの砦のどこかにいるはず」
「……そう」
暗い顔のままのリトが「でも、嫌な予感がするんだ」とぽつりと呟いたのが気になった。
停滞していた捜索に動きがあったのは、捜索を開始して三日経ってのことだった。
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