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3章 29話 見つかった痕跡
捜索を開始してからすでに三日は過ぎただろうか。忽然と姿を消した十三人はいまだに見つかっていない。目撃情報も無く、匂いも音もしない。そんな中ヴィヌワの僕達が出した結論は考えたくないことだった。
「何らかの形で精霊様が干渉しているのは間違いない」
断言したキトの言葉に僕は耳を伏せた。
「精霊がそこまでするでしょうか? 精霊と言うものは本来自分勝手な生物です。それに、我々にその姿は見えません」
「例えその姿が見えなくとも、精霊様は我々と共にいてくださる。我々ヴィヌワが精霊様を地に降ろし御魂をお送りできるのが証拠だ」
「ならば何故精霊が干渉していると言うのです? 魔道具はただ単に壊れただけです。聴覚や嗅覚が利かないのだって理由を探そうと思えばいくらでも探せます」
種族存続機関の会議室で僕とキト、それから種族存続機関の関係者一同が揃ってこれからの方針を話あっていた。
「捜索をしている者全員の五感が利かないのにか? 山での捜索でこんな事は一度たりとも無かった。逆に精霊様がその居場所を教えて下さったのだ」
「貴方方ヴィヌワが精霊を崇拝してるのは知っていますけど、姿を見ることの出来ない精霊を我々ベーナは信じていません」
「では魔道具が一切効果が無いのは何故だ」
「それは壊れたからと言っているではないですか」
「三十一個の魔道具がいきなりか? それこそおかしいだろう?」
「キトちゃん、トナーさん、そこまでにして。あたし達はこれからの方針を話し合っていたはずよ」
静かに溜息を吐いたヨハナさんが熱くなっている二人を止めた。
砦の草原側の外でとても長いロープが見つかったと連絡が入ったのは日の光が出ていない早い時間のことだった。
ロープに付着していた毛を古代の魔道具で調べた結果何人かのヴィヌワの毛だと言うことが判明しすぐに緊急会議が開かれることとなった。
僕はキトに参加しなくていいと言われたけど、無理を言って連れてきてもらった。未熟な僕が何も出来ないのは分かっているけど、何もしないで待っているだけと言うのは嫌だった。
「そうだな。トナーすまない。熱くなってしまった……」
「いえ、私の方こそ申し訳ない」
「では、草原方面の捜索隊の予算の話をします? あんまり出したく無いですんですけど……」
「ポメメ」
「トナーさん、この三日の捜索でどれくらいのお金がかかっていると思っているんです? 探索の魔道具は全て壊れ、その修理の代金。一万四千じゃ足りないからと足された捜索隊の人員。これだけでもう一億と言うお金が動いているんです。これ以上砦の税をあまり投入したくありません。たかが行方が知れないというだけで……はっきり言って悪いんですけど、姿を自ら消したのなら全て自己責任です」
「キャリロの者も数人行方が分からないと言うのにそんなことを言うのですか?」
「当たり前ですよ。三歳や四歳の子でもあるまいに。僕達キャリロは六歳で親の家業を手伝い始めます。いわば、職人見習い、あるいわ商人見習いですね。見習いになった時点で大人と一緒だと考えてます。成人まで税金はかかりませんけど。それは他の種族も一緒でしょ? ヴィヌワ以外は」
「ポメメ」
ちらりと僕とキトを見たポメメさんがトナーさんに窘められ顔を戻す。横のキトを見ると顔を俯けていた。
「はぁ……貴方は商人ですよね、ポメメ。現段階の話をするのではなく先の事を見据えて話をしてください。ヴィヌワの税は今は免除されていますけど、ポポロ鳥の飼育と絹蜘蛛の飼育が始まり後半年したら税金を納めてくれると言っています」
「ポポロ鳥と絹蜘蛛の飼育? 何ですか? それ。知らないんですけど」
「貴方にはお伝えしてません。キャリロの商人に独占されたら我々ベーナも困るんでね。それに、ポポロ鳥と絹蜘蛛の飼育技術も教わる手はずになっています」
「はぁ!?」
「言ったでしょう? キャリロに独占されては困ると。キノリ酒と薬、それからヴィヌワが作る塩、干し肉。これらはキャリロが全て市場を独占していますよね。いい機会でしたのでポポロ鳥と絹蜘蛛の飼育技術に関しては飼育の仕方を開示していただくことにしました。キャリロが売る物はあまりにも高いのでね」
ポポロ鳥はまだ成体ではないから売りに出されてはいないけど、砦で扱われているポポロ鳥はあまり見ないしどれも高い。串焼き一本で銀貨一枚の値段なんて考えられない。絹蜘蛛は飼育するのに暗くてじめじめした所でないと飼育できないしストレスに弱いからすぐに死んでしまう。だから環境を作るところからやっているから時間はかかるけど、ポポロ鳥は三ヵ月もすれば成体になって卵を産みだし、半年もすれば肉も脂がのって甘くなり売りに出すことが出来るのだ、とキトが言っていた。だから、ポポロ鳥を売りに出すのと育てる時の事を話すのだ。飼育技術もお金で買ってくれるとヨハナさんが言っていた。
僕達ヴィヌワはポポロ鳥はいて当たり前の魔鳥。ベーナが飼育している魔牛と一緒だと言ったらヨハナさんが驚いてたけど。
「技術なんて特に無いがな」
ぽつりと言ったキトの言葉にポメメさんが目を見開く。
ポポロ鳥は、言ってはいけないけど知能はそんなに高くない。人懐こく捕まえやすい。安全な場所だと示せば人と共存する道を選ぶ。柵で囲っておけばそこから逃げることもしないし繁殖能力も高いからすぐに増える。
だから、砦で高値で取引されていると聞いて驚いた。
「山では小麦や砂糖の方が高かった」
「どの位だったのかしら?」
「ポポロ鳥三羽で小麦一袋、もしくは砂糖一袋と交換だった。砦に来てから小麦や砂糖が安いものだと知った」
「ぼったくりじゃない」
ヨハナさんがギロリとポメメさんを睨むと飄々とした顔で「砦と山では物の価値が違いますから」と言っていた。
「話を元に戻しましょう。ポメメ、こう言うことですので」
「それならいいですよ」
ポメメさんの目が光った気がしたけどここにいる全員気にしている様子は無いから気にしなくてもいいのだろう。
「では、草原へ捜索をするメンバーを決めましょうか」
「あまり大人数で行かない方がいいわね。最近遺跡近くに大型の魔物が出没すると連絡がきたの。それを刺激したくないわ」
「大型の魔物ですか?」
「そっちは今ヨハナの隊が調査しているところだ」
「ふむ」と言って腕を組んで考え込んだトナーさんが皆を見渡す。
「少数精鋭ですね。少数ならお金もかからないですし」
「ポメメ。……ではこうしましょう。各機関から一人、もしくは二人。腕に自信があるも者を出してください」
「兵団はタンクが上手いものを出す。探索者ギルドはアタッカーでも出してくれ」
「ちょうどいいシヴァ出てくれ。その分報酬は払う」
「分かりました」
「キャリロは結界魔法と防御魔法が上手なメルルとウルルを出します」
「悪いが警備隊は草原への捜索には出せない。貧民街での調査がある」
「オーリ、警備隊にも出てもらいます。草原全域を探すのはこの人数では骨が折れます。貴方は部下に言って行方不明者の足取りを追ってください」
「本気でいってるのか? トナー」
「本気ですよ。何の為に魔馬隊があるんですか。こう言う時の為でしょう?」
「まじかよ~……」
「隊長、調査隊はどうするの?」
「ヨハナお前が行ってこい」
「え? あたし? あたし大型魔物の調査の指揮があるんだけど? それに山の調査は誰がするのよ」
「魔物の調査は俺が指揮する。山は……お前の下につけた……ネオだったか?」
「レオよ。レオはまだそこまで育ってないわよ」
「いや、指揮をすることを覚えさせるにはちょうどいいだろ?」
「大丈夫かしら?」
「大丈夫だろ? 何かあったら俺がフォローする」
「分かったわ」
ぞくぞくと決まっていく事柄に僕は心を奮い立たせていた。
僕も参加する。何があっても皆を無事に砦に連れ戻すんだ!
「ヴィヌワは俺が出る」
「僕も行く!」
僕が立ち上がって言った時のキトの顔は見たこともない程の恐ろしい形相だった。
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