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Ⅳ 運命の番③

「なぜ」 「……とは愚問だ」 テロリスト集団《リュムナデスの火》総督・影瑠の正体は、我が兄・子の国台湾総督府艦隊 艦長・琉青 「リュムナデスの火が焼いたのは台湾総督府艦隊のドローンだ。 お前も知っているだろう。私の得意戦術はドローンだ」 最初から兄上は艦隊にいなかった。 艦隊そのものがドローンを使ったダミーだったのだ。 「もっとも多少の犠牲は出たが、お前を守るための戦術だ。計算の内だよ」 高速機部隊が全滅した事を不敵に笑う。 なぜ、世界を統括する兄がテロリストの総帥になってるんだ。 「この世界には火種が必要なんだ」 適度な火種をまく事で、憎しみは火種に向かう。皆が憎しみの対象を一致させる事で、平和は保たれる。 「歴史が証明しているさ。平和を当たり前のものと感じた時代に、世界対戦は勃発している」 「でも、それでは」 「小さな戦争で、大きな平和が保たれるなら止むを得ない」 「だからといって、旧日本を」 破壊して、テロリストに再び憎しみを向かわせるのですか? そんな事をしなければ、平和は保たれないのですか? 「そうだよ。人の意識は脆いんだ」 だが…… それだけじゃないね。 「『贄堕ち』したお前に発作は起こらない。運命のαである私がそばにいて、発情を管理する。お前はΩになったんだ。 もう、あの地下施設は必要ない」 隠す必要もない。 話そうか。 「αだった頃のお前の発作は、命に関わる症状だった。あの施設は、お前の命を守るための人体実験施設だ」 俺の物ために、あそこで命が…… 「発作は起こらないから、施設も必要ない。廃棄する。日本ごとね」 面倒なんだよ。 世界連邦政府の連中に付け入る隙を与えては。 「幾らテロリストに憎しみが向いているとはいっても、人体実験はまずいからね」 「兄上はまさか……」 「それもあるよ」 口角をそっと持ち上げた。 「私はこの世界を壊せる人間だ。命を紡ぐために、命を搾取せねばならぬなら、迷わずその道を選ぶ。 世界の平和もお前の命も保てるなら、私は世界を裏切り続ける」 私は軍人であり、同時にこの世界を管理する政治家だ。 「未来のために」 お前のために、より良い未来を取捨選択する。 「違います!あなたの創った世界で俺は一人だった。だからッ!」 「悪かった。ならば今から正せばいい。子の国を壊したって構わない」 「壊し続けたらあなたがッ!」 空っぽだった俺に居場所を与えてくれた事は感謝している。 でも! このままじゃ、いつか。 兄上が壊れてしまう。 「私はどこにも行かないよ。お前のそばにいる」 一発の銃声が発砲した。 体が崩れていく。 スローモーションで…… 悪夢に飲み込まれる感覚が掌を伝った。 真っ赤な血痕が、手の中にしがみつく。 兄上の体が重い。 俺の腕の中に倒れ込んだ兄上が……動かない。 「あなたはなにを言ってるんですか、琉青様。子の国の発展に、私がどれだけ尽力したか忘れましたか」 男の手に握られた銃口が、硝煙を(くゆ)らせている。 「まぁ、構いませんよ。あなたという地位の人間をすげ替えるだけです」 「お前はァァァアーッ!!」 シン!! 「なぜ、兄上を撃ったァァァァーッ」

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