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平凡生活に幸福デート
―――時が過ぎるのは早く、新しい年を迎えてから1ヶ月以上が過ぎた。
もうすぐ、学期末試験が控えている学校内は、生徒も教師も妙にピリピリしている。
まぁ、俺は毎日その日の授業の復習と予習もしてるから、今から慌てて試験範囲を勉強しなくても、少し教科書とノートを見ればいいんだが。
今頃、ミケ何やってんだろうなー。
つい先日、アルファベットと簡単な英単語のドリルを買ってきたから、それやってんのかな。
ドリル買ってきて渡したときめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしてたし、勉強は嫌いじゃないんだろう。
でも何であいつ学校行ってないんだ。
中学は義務教育だから、学校側も連絡したりするんじゃないだろうか…。
確か、ミケの親はいないんだったよな。
ミケと初めて会ったときそう言っていたはずだ。
でもほんとにいないんだろうか…。
もし親が亡くなったときは親戚、親戚がいなければ施設へと子供は預けられるはずだ。
ミケのことまだまだ知らない。
今まで深くは考えてこなかったけど、これからどうするべきか考えた方がいいよな。
いや俺はこれからもずっとミケの面倒を見ていきたいと思ってる。
でもミケはもしかたらいつかは、俺のもとを離れたいと思うときが来るかもしれねぇーし…。
「おーい。椿。ここ教えて」
一日の最後の授業は物理だが、自習の時間で試験の勉強の時間、教科書を開いたまま、ミケのことを考えていた俺の方を見たクラスメイトが自分のノートを見せてきた。
「てかお前、試験前に勉強せずにぼーっとしやがって、余裕だな。さすが学年1位!」
「うるせー。ちょっと考え事してたんだよ」
「あぁー。今日はバレンタインだもんな。お前朝から大量のチョコ貰って告白されてるしな。誰かと付き合うのか?」
「はぁ?」
「…んっ?いやお前年上の彼女がいたな、そういえば」
「いや、いねーし。それはお前が勝手に作った話だろ」
こいつが勝手に勘違いしただけだ。
「彼女とはうまくいってんのか?今日もこのあとラブラブバレンタインデートだろ?」
「はいはい、もうめんどくせーからそういうことにしといてやるよ。てか、分からないとこ教えねーぞ」
今日はバイト休みだし、帰ってきてからミケとどっか行こうかな。
最後の授業も終わり、急いで学校を出た俺は、早くミケに会いたくて歩く足を速めた。
「――あれ、つばき?」
「ミケ?」
海岸沿いの道を歩き、あと少しで自分のマンションに着くというところで後ろからミケの声がした。
「つばき!」
嬉しそうに俺のもとへ走ってくるつばき。
すぐにこちらに近づいてきたつばきは息切れ一つせず笑顔で俺を見ている。
「つばき今日、バイト休みだったんだね」
「あぁ」
そういえば今朝、バイト休みってミケに言うの忘れたな。
「ミケは出かけてたの?」
「…えっ、ぁ、うん」
歯切れの悪い返事。
「どこ行ってたの?」
思わず聞いてしまった。
「うん、ぇ、あ、散歩かな。この前つばきが買ってきてくれたアルファベットのドリルやってたんだけど、ちょっと息抜きしたくて…」
「そっか」
早口で説明したミケ。
何か隠してることありそうだな。
そういえば、2学期の終業式の日もひとりで海見に行くって出ていったよな。
「ねぇ、つばきそれ何?」
何か隠してることあるか聞こうとしていた俺より先に口を開いたミケは、右手に持っている紙袋を指差した。
「あぁ、これはチョコ。それよりミケ今からどっか行こう。行きたいとことかあるか?」
「うーん、行きたいところか…」
「せっかくバイト休みだしな」
「うーん。じゃあ海で一緒に星眺めよう」
数分考えたミケは、笑顔で海を指差した。
「え、そんなのでいいのか?」
「うん。つばきと一緒に星を眺めたい」
「まぁ、ミケが言うなら…。1回帰って着替えてからでいいか?」
「うん」
大きく頷いたミケ。
二人並んで家までの道程を歩いた。
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