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 *  一回、家に帰り普段着に着替えた俺をソファーに座って待っていたミケ。 「ほら、ミケ。これ」  俺は自分のマフラーをミケの首に巻いた。 「てか、もしこれからも一人で散歩行くときとかは寒いからこれ付けていけ」  2月。  まだまだ寒い日は続く。 「でも、これつばきのやつ…」 「いいから。それあげる」 「えっ、いいの?」  俺はミケの頭を優しく撫でながら頷いた。  ミケの髪、さらさらして綺麗だよな。 「ありがとう!嬉しい!」  俺の顔を大きな瞳で見つめているミケ。  ほんと、ミケに笑顔が増えてよかった。  ミケが笑った顔を見ると、安心するんだよな。 「よし、海行くか」  日も落ち始め暗くなり始めている空。  俺達は浜辺に並んで座った。  隣にミケがいて、二人でこうやって何も話さずぼーっと海を眺めるのもいいな。 「……椿と会う前はひとりで海も星も眺めてたけど、ひとりより椿と一緒に見る方が何倍も綺麗に見える」  ぼそっと呟いたミケ。  体育座りで膝に顔を埋めているが、その瞳は海を眺めている。  その瞳が何故か暗くて――  俺はゆっくりミケに腕を伸ばし、小さい身体を包み込んだ。 「…椿?」  腕の中にすっぽり収まった体育座りしているミケの身体 「そんなのまたいつでも一緒に見に行こうよ」    だから、そんな寂しそうな顔するな。 「うん。そうだね」  先程よりだいぶん明るくなった声。  ミケは俺の背中に腕を回した。 「椿の胸の中はやっぱり落ち着く」 「そうか?」 「うん」  俺の胸の中で思いっきり息を吸ったミケ。 「あっ、もうすぐだ」 「何が?」  俺は抱きしている腕を緩め、ミケを見た。 「ほら、あれ」  笑顔で空を指差す。  ミケが指差した先には陽が落ちて暗くなり始めている空に金色に輝いている星があった。 「この星も好き。一番初めに輝き始めるこの星を見ると、あーこれからたくさんの星が輝き始めるんだなってわくわくする」  確かあれは一番星で、金星だったよな。 「そういえば、何で椿は今日あんなにいっぱいチョコ貰ってたの?」  一番星を見つめていたミケが、思い出したように俺の顔に視線を向けた。 「あぁー、今日2月14日はバレンタインだからな」 「ばれんたいん?」 「そう。どう説明すればいいかな…何というかお世話になってる人に感謝の気持ちを込めてチョコを送ったりとか、好きな人に送る場合もあるかな」  いや日本では、どっちかというと後者の方がポピュラーなんだけどな。 「……そんな日があったのか…。じゃあ椿にバレンタインを送らないと!えーと、チョコ、そうだチョコ送ろう」  慌てたように立ち上がったミケ。 「とりあえずチョコ買ってくる!」 「いやいや、いいよ」 「何で?椿のこと好きだし、椿にはいつもお世話になってるし…。バレンタイン知ってたら、ちゃんと準備してたのに。チョコ買ってこないと」  このままじゃチョコを買って俺に渡すまで諦めない雰囲気のミケ。 「それじゃあ、俺の誕生日に俺の好きなもの作って祝ってよ」 「椿の好きなものって、オムライスとコーヒーゼリー?」 「そう。それ作って祝ってよ」 「うん。わかった。でも、椿の誕生日って…?」 「3月2日」 「3月2日か…」  ふと何か考えてるミケ。 「約束だからな」 「…うん。わかった…。オムライスとコーヒーゼリー作る!」  そう笑顔で答えたミケの頭を優しく撫でた。

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