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 今度の日曜は近所を散歩してみよう。  藤宮先生にも今度ごちそうしないといけないしな。  俺は酔って火照った身体を冷やすように駅までの道程をゆっくり歩いた。  この道、街頭ないし星が見えるかもしれないな。  俺は立ち止まり見上げた。  小さな星たちがまばらに輝いているが、あの町で見るより綺麗には見えない。  海岸沿いで眺めた空は、大きな輝きを放つ星もたくさん見れて綺麗だったよなー。  そういえば、ミケ、シリウスと金星が好きだって言ってたっけ…。  いつも大きな瞳を目一杯開いて、星空を眺めていた。  その真っ黒な瞳に映る星が綺麗で――星空を眺めるより、そのミケの瞳をずっと見ていたいなんて思っていた。  俺は見上げていた顔を正面に戻し 「…………えっ…」  視線が合った。  あの真っ黒で大きな瞳と――。  小学生と間違えそうな背丈、華奢な身体。 「………ミケ…?」  俺が呟いた声が聞こえたのか、ビルの間の脇道へ走っていったミケ。  やっぱりあれはミケだよな。  俺は慌てて走っていったミケを追いかけた。  ビルの脇道。多分あそこは行き止まりだ。  俺は真っ暗な脇道へと入っていった。――が、ミケの姿はない。  隠れるような場所もない。    もしかしたらあれはミケではないのかもしれない。  というか、酔っていたからミケが見えた…のかもしれない。  あの頃から、ミケが家を出ていった日から俺はずっとミケのことを忘れることは出来なかった。  俺は自分の首に巻いている赤いマフラーに触れた。

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