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実はこの広い街、東京でつばきを一度だけ見かけたことがある。
つばきの家を出ていって4年経ったときだったかな…?
ほんとにたまたまで、つばきは笑顔で一緒にいた人と笑い合っていた。
4年だから――つばきが21歳のとき、大学生。
行きたい大学があるって言っていたつばき、その行きたい大学へ入学できたのかわからないけど……笑顔のつばきを見かけることができて嬉しかった。
そのとき、椿、教員免許合格おめでとう。というつばきと一緒にいた人が言っていた。
教員免許をすぐ、調べた僕。
教員免許は先生になるための資格、これがないと先生にはなれない。
本当に本当によかった。
つばきは自分の夢のために頑張っている。
僕も頑張らないと!
教員免許についてのページが開いたままのスマホを握りしめた。
――――
――
僕は見上げていた顔を戻した。
…………つ、
戻した視線の先、かなり離れた距離だけどわかる。あの人は―――。
「―――つばき」
きっと先生してるんだろう。
あのとき見かけたときより大人っぽくなっている。
そっか、スーツ着てるから。
僕はじーっとつばきの姿を目に焼き付けた。
まさか、またつばきの姿を見かけることができるなんて思ってなかった。
「………ミケ…?」
つばきの声が聞こえた。
久しぶりに聞いたつばきの声、久しぶりにつばきに呼ばれた名前。
思わずつばきの胸に飛びつきたくなった。
駄目だ。
だって、つばきには―――
僕はつばきのもとへ駆けだそうとした足を、あと少しで着くさつきの方へと向け、全力で走りさつきの中へと入った。
「あ、みけくんおかえり。ありがとね」
「いえ、これ冷蔵庫に入れときます」
それから僕は忙しい店内を動き回った。
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