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恋愛ドラマ、つばきの部屋で見たあのシーン、思い合う二人の唇同士がひっつくあのシーンに少し似ていたからびっくりした。
でもよく考えてみたらそんなシーンが僕の身に起こるなんてありえない。
「――そうだ、何か食べるだろ?軽く食べれそうなもの買ってきた」
先程下ろしていた袋を持ってきたつばき。
「食欲あるか?あるならサンドイッチとかおにぎりとかあるけど」
「……なんで、つばきこの部屋がわかったの?」
昨日、僕が道路で倒れたのはわかった。
それをつばきが助けてくれたのもわかったけど、どうしてこの部屋までつばきは僕を連れて来れたんだろ…?
「たまたまこのアパートの大家さんが通りかかったんだよ。で、ミケに気づいて、案内してもらった。大家さんが通らなきゃ、俺の部屋に連れて行こうと思ってたんだけどな」
笑顔のつばき。
あ、右頬にくぼみできてる。
これもあの頃と変わらないな。
「で、おにぎり食べれそうか?」
そう言い、袋の中からおにぎりを取り出したつばき。
僕はそのおにぎりを受け取った。
「それ食べたら薬もな」
つばきのこの目尻の下がってしわのできるこの笑顔が好き。
これもあの頃と全然変わってない。
僕は小さく頷いて、おにぎりを頬張った。
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