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 * 「あっ!仕事!」 「うわっ!びっくりした。急に大きな声出すなよ~」  僕の隣で一緒におにぎりを食べていたつばきの肩がびくっと動いた。 「あの、僕、仕事行かないと…」 「そこの商店街にある喫茶店で働いてるんだろう?」 「……なんで…?」  なんで、つばき知ってるの…? 「あぁー、昨日たまたまそこの喫茶店でオムライス食ったんだよ」 「…オムライス…」  つばきの一番好きな食べ物だ。 「すごい美味かったし、懐かしかった」  僕の頭に手を乗せたつばき。 「一口食べてすぐわかったよ。あ、ミケのオムライスだ!って」  つばきの手はそのまま僕の前髪へと移動されていく。 「俺の好きな味」  優しく微笑みながら、つばきの手が僕の髪を撫でる。    つばきの手のひら、長い指。  本当に懐かしい。  ドライヤーでいつも髪を乾かしてくれていたあの指が好きだった。 「どうせミケ、今日はまだ安静にしとけって言っても、仕事行くんだろ?」  ゆっくりと離れていくつばきの手のひら。 「―――じゃあ今日、ミケが仕事が終わる時間に迎えに行く」 「えっ?」 「だから夜ご飯食べに行こう!」  でも、さつきの方もあるから終わるのはかなり遅い時間になっちゃう…。 「……もしかしてミケ、あそこ以外でも仕事してるのか?」 「何で!?」  何でわかるの!?  まだ何も言ってないのに…。 「…まじか…そっちのほうは何時に終わりそうなんだ?」 「えーと…夜の11時なんだけど…」 「すごいなミケ。働き者だ。で、どこで働いてるんだ?」  もう一度乗せられたつばきの手のひら。  今度はさっきと違って、すごい勢いでよしよしと撫でてくるつばき。

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