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「一つ先の駅の近くにあるお店なんだけど……さつきっていう所で…」
「えっ!?そこって…俺この前食べに行ったとこだ」
…つばき来てた…?
「先週の金曜日だったかな」
金曜日…。
その日は、しずくの方が忙しくて、いつもより遅れてさつきの方へ行ったんだった。
で、沙月さんにおつかい頼まれて……
あっ、その時つばきを見かけたんだ。
あれはさつきから帰るところだったのかもしれない。
「あれ…?じゃああのとき見たミケは本物だった…のか…?」
そう言い、大きくため息をついたつばきは「何だよ、あのとき会ってたのか」と小さく呟いた。
「でもじゃあ何でミケ逃げたんだ?」
………そうほんとはつばきの所へ飛び込みたかった。
でも―――
「逃げて、ないよ?うーん、つばきに会ったかな…?あの日、沙月さんに頼まれておつかいに行ったけど…」
僕はとっさにあのときつばきに気づかなかったということにした。
「そっか。ミケは気づかなかったのか」
そう言ったつばきの顔は少し寂しそうで…。
ほんとは気づいてたよ。そう言ってしまいそうになった。
「まぁ、じゃあ、11時頃さつきに迎えに行く」
「いやでも…」
「俺がミケとご飯食べたいんだ。いいだろ?」
そう言われると、断るなんて出来ない。
僕もつばきと一緒にご飯食べたい。
「………ほんとはその時伝えようかと思ったけど、やっぱり今伝える」
急に笑顔が消え、真剣な顔へと変わったつばき。
ぼそっと呟き、さっきまで僕の頭をなでていたつばきの手が、僕の手を握った。
つばきの体温。温かい。
「えっと…つばき、どうしたの?」
僕は真剣な顔のつばきを見つめた。
あの頃好きだったつばきの綺麗なコーヒー色の瞳に僕が映っている。
本当に綺麗な色だな…。
「俺――ミケのことが好きだ」
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