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「こんばんは」
「あ、みけくんこんばんは。今日も頑張りましょうね」
裏口から店へと入り、さつきさんに挨拶してロッカールームでエプロンをつけて、
さつきのお仕事をはじめた。
「あ、そうそう。なんかこの辺り最近、不審な男がうろついてるみたいなのよ」
「不審な…ですか?」
「うん。だからみけくんも帰るときとか気をつけてね」
「はい。でもさつきさんも気をつけてくださいね」
僕よりもさつきさんのほうが気をつけないと。
女性だし、さつきさんきれいだから……。
「ふふ。ありがとう。でもわたしはみけくんのほうが心配だわ。ミケくんかわいいしな~」
さつきさんは真剣な表情で僕の顔を見ている。
「あの……?」
「なにかあったら大声出して、逃げるのよ!そしてすぐ110番ね」
「はい。さつきさんにこうやって心配してもらえて嬉しいです」
「ほらやっぱりみけくんかわいいからな~。それに、お客さんの中にもみけくんのファンの人もいるしね」
「えっ?そうなんですか?」
僕の……??
みんなさつきさんの料理とさつきさんとの会話を楽しんでるような……。
「やっぱりみけくん全然気づいてないわね~。ほらあの………」
「こんばんは」
さつきさんの言葉を遮るように、店の入口から声をかけた人物。
「あら、紫村さん。今日は早いのね」
常連のお客さん、紫村さんだ。
「みけくんもこんばんは」
「紫村さんこんばんは。いらっしゃいませ」
紫村さんは結構な頻度でさつきにごはんを食べに来るお客さんで、僕がここで働く前から来ているお客さん。
物腰やわらかい、素敵な方だ。
年齢は……何歳なのかな…。
聞いたことないけど、見た感じ30代後半から40代ぐらいかな…。
「あっ。そうだったわ!みけくんごめんね、ちょっとおつかいを頼んじゃっていいかしら?」
紫村さんの頼んだお酒の準備をしていた僕にこっそりお願いしたさつきさん。
「大丈夫ですよ。なに買ってきたらいいですか?」
「えーと…お味噌が切れてたの忘れてて、お味噌をお願いしていいかしら」
「はい。わかりました。買ってきますね。これ、紫村さんがご注文したお酒です」
「はーい。お願いね」
僕はエプロンを外して、裏口の方から店を出た。
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