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つばき…ほんとに迎えに来るのかな…。
なんか会うの気まずいな……。
つばきは今朝のことなんて何とも思っていない、よね。
でも――やっぱりドキドキしちゃうよ…。
つばきの真剣な顔が、すきって言ったあの声が頭から離れない…。
…………ってだめだ。
またミスしちゃう。
集中、集中。
今はお仕事のことだけ考えなきゃ。
僕は裏口の扉の前でひとつ大きな深呼吸をした。
袋の中は味噌が入ってる。
大丈夫、ちゃんと味噌だよね。間違えてない。
「ただいま帰りました」
エプロンをつけて、味噌を冷蔵庫に入れてさつきさんにひとこと挨拶した。
「おかえりなさい。じゃあここのお皿のお片付けお願いしていいかしら」
「はい」
流しのところにおいてあるお皿の片付けをお願いされた僕は、さっそくお湯を出してお皿を洗い始める。
そういえば紫村さんいなかったな。
いつもさつきさんとのお話が盛り上がって、結構長い時間お店にいるのに……。
まぁでも今日はお客さんがいつもより多いし、さつきさんに気を使って早く帰っちゃったのかも。
*
あのあとは、お客さんが多かったこともあって、仕事に集中できて、一回もミスはしていない。
「みけくんお疲れさま。今日はちょっと忙しかったわね」
「お疲れさまです。そうですね。いつもよりお客さん多かったですしね」
「ねー。みけくん大丈夫?疲れてない?みけくん、お昼もお仕事してるから…」
さつきさんが心配そうに僕を見ているので、僕は笑顔で大丈夫と答えた。
「無理しちゃだめだからね。それにみけくん、病み上がりだし…」
ほんとうにさつきさんも優しい。
周りにこんなにも優しい人たちがたくさんいて嬉しい。
幸せだな。
「じゃあもう今日は上がっていいわよ」
「えっでも…」
まだお皿が全部洗い終わってない。
「これぐらいわたし一人でやっちゃうから大丈夫。だからみけくんは上がっていいわよ」
さつきさんは残りのお皿を流しの中へと入れている。
「えーと……じゃあお言葉に甘えて……」
「うん。お疲れ」
「お疲れさまです」
僕はさつきさんの優しさに甘えて、早めに上がることにした。
エプロンをはずしてロッカーに入れ、持ってきていたかばんを持って裏口から外へと出た。
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