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 あのマフラー。  そっかつばき、ちゃんと使ってくれてるんだ。  赤いマフラー、僕がつばきのために内緒で編んだマフラー。  嬉しい……。 「いつまでも外にいても寒いし、どこか店入ろう」  つばきが僕の手を握って歩きはじめる。  つばきの手あったかいなぁ~。  あの頃、つばきとお出かけするときはいつも僕の手を握ってくれてたよね。  僕はとなりにいるつばきをこっそり見上げた。  つばきの首に巻かれている赤いマフラー。  編んでから気づいた。男性に赤色のマフラーは好まれないんじゃないかって。  男の人は黒色とか紺色とかのほうがいい。  でもつばきは赤色が似合う、そんな気がした。  だってつばき温かくて、つばきの色は赤色ってそんな勝手なイメージを抱いて編んでしまった。  それに、つばきに見せてもらった椿の花も赤色の花の写真だった。  つばき=赤。  勝手にそうイメージしてしまったんだよね。 「なんかそんなにじっと見つめられると照れるんだけど」  不意に立ち止まったつばきは、頭をかきながら僕の方を見た。 「ぁー、えーとごめん。なんか嬉しくて……」  僕は視線を外しながらそうつぶやいた。  無意識につばきを見つめてしまってたみたいだ。 「俺もミケとこうやって会えて、今となりにミケがいるの嬉しい」 「…………まただ」  つばきは昔からそうやって無自覚に僕が照れちゃうようなことを言うんだ。 「そうそう。これのこと聞きたかったんだけど―――」  つばきが自分の首に巻かれている赤いマフラーを指さしている。 「マフラー」 「うん。このマフラー、もしかしてミケが編んでくれたのか?」 「……なんで…」  自分で編んだとは置き手紙にも書いてなかったはず…。  知られたくなかったし……。 「違ったらいいんだ。でも―――ミケが俺のために編んでくれたやつなら、すっげー嬉しいなーって思って」  つばきの笑った顔。  目尻にできるしわ、右頬にできるえくぼ。 「……つばき、ずるいよ」  僕は赤くなった頬に手を当ててつぶやいた 「ないしょ。でもつけてくれてありがとう」  そう小さい声でつぶやくと、つばきは優しく微笑んだ。  それからはお互い無言のまま歩く。  そういえば、どこにご飯を食べに行くのかな……。  僕は隣を歩くつばきの顔をこっそり見上げると――つばきも僕の方を見ていたみたいで、ばっちりと視線がぶつかった。 「………ぁっ、えーと……」  恥ずかしくなりなにか言って誤魔化そうと思うけど…言葉が出てこない。 「―――俺さ、あのときミケと過ごした日々のこと今でも覚えてる……というか夢にも見るぐらいなんだけど…」  後半はひとりごとのように呟いたつばき。 「あのとき、海岸でミケと出会えてよかったなーって」 「………僕も…つばきと出会えてよかった。つばきと過ごした日々も一生忘れないと思う」  食い気味に発した僕に優しく微笑みながら頭をポンポンと撫でるつばき。  あー、やっぱりつばきのこと好きだ。  つばきの温かい手のひらに頭を撫でられると、自分の気持ちに正直になれた。 「――ミケにそう言ってももらえて嬉しい」  僕の顔を見つめたまま小さく呟いたつばきの声は近くにいるのでばっちり聞こえた。  僕はその声に返事をするように、少し笑みを浮かべた。

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