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さっきあんなに真剣な表情だったのに、今は目を見開いて驚いてるつばきの表情の変化が面白くて、思わず笑ってしまった。
「うん。やっぱりミケは笑っている方が、何倍もかわいいな」
「…………えっ…」
微笑んでいるつばき。
そんなつばきの顔が真正面にあって、ぼくは慌ててうつむいた。
…あつい。
急激に上がった体温。
顔に全部の熱が、集中している。
かわいい、
そう言ったつばきの声が、何度も耳の中で鳴り響いてる。
「………やっぱりずるい…」
ぼくは、つばきにも聞こえないぐらい小さな声で呟く。
「とりあえず、これはミケに返すよ」
一生懸命、顔の熱をおさめようとしていたぼくは、つばきの言った言葉にすぐ理解できなかった。
かえす、これ…。
これっていうのは……
つばきの顔を一瞬だけちら見して、つばきの言ったこれを確認するけど……やっぱりお金のことだ。
これが何のことをさしているのか、すぐ理解できてた。
ぼくが置いていったお金だって。
「……なんで…?迷惑だった…のかな」
「迷惑なわけないだろ。ただこれはミケが稼いだお金だろ?だから返すんだ」
「でもこれはつばきにたくさんお世話になったから……つばきと一緒に過ごした日々が楽しかったから。そのお礼で………」
「じゃあ、これは?」
つばきは店の中でははずして座席に置いてあった赤いマフラーを、持ち上げてぼくに見せた。
「それもそうだよ。つばき喜んでくれたらいいなーと思って編んだやつ……」
「そうか、やっぱりこれミケが編んでくれたんだな」
「……あ」
さっき、ここに来る前につばきにないしょって言ったのに、自分で明かしてしまった。
自分で編んだって、知られると恥ずかしかったから。
だから、ないしょにしてたのに。
「嬉しい。ありがとうな。毎年冬はこのマフラーに温かくしてもらってる」
「うん」
「だから…これはいい。お礼はこのマフラーと、作ってくれた料理で十分」
ぼくはなにも言わず、机の上に置いてある封筒を手に取ろうとした。
………そんなぼくの手の上に優しくおかれたつばきの大きな手のひら。
「ぇーと…どうしたの?」
ぼくの上におかれた、温かい手のひら。
つばきの体温あたたかいなー。
つばきの心が、優しいからなんだろう…。
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