69 / 88
(9)
「ミケ、また一緒に住まないか」
優しくぼくの手を握って、真っ直ぐこちらを見ているつばきの綺麗な瞳に、ぼくが映ってる。
またつばきと一緒に――。
あの頃の日々を思い出す。
楽しいだろうな。
つばきと一緒にご飯食べて、つばきに髪乾かしてもらって、一緒のベットでつばきと隣り合って眠りについて……
ぼくはつばきの瞳を、じっと見つめる。
つばきのこの瞳がすっごく綺麗で、大好きだ。
でもつばきのこの綺麗な瞳に映っていいのは、ぼくじゃないんだ。
だってつばきには、大切にしている女の人がいるんだ――。
遠目だったけど、すごくスタイルのいい、きれいな人だった。
まわりの人たちからも、たくさんの祝福をもらえるような……つばきに、とってもお似合いの人だ。
「ううん。つばきとは、一緒に住めない」
ぼくはつばきの視線から逃げるように、うつむいた。
そのときに、つばきから握られていた手もはずす。
「………そっか」
それから……
どのぐらい沈黙な時間が続いたんだろう。
お互いしゃべらないまま、つばきが持ってきてくれたおかわりの飲み物を飲み干した。
「ごめんな、ミケ」
「ううん、ぼくの方こそ………」
「でもこれからもご飯は食べに行こう」
ぼくの言葉を遮るように、つばきは早口で被せてきた。
「うん」
つばきはぼくのことを、弟としてほっとけないんだよね。
つばき優しいもんね。
それから店を出たぼくたち、つばきに家まで送るよと言われたので、夜の道を歩いた。
そのときにつばきが先生として頑張っていることも聞いた。
やっぱりつばきはすごい。
あの頃の夢に追いついて、今頑張ってるんだ。
だから、ぼくも頑張ろう。
ひとりで生きていけるように…そしていつかは自分が作った料理を、提供できるお店を経営したいなー。
隣を歩くつばきを見上げ、そう決心した。
ともだちにシェアしよう!