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「…あっ、紫村さん…?」
「うわー驚いたな。こんなところでみけくんに会えるなんて」
さつきの常連、紫村さん。
いつもの優しい笑顔。
……あの時――さつきの前で、鋭い視線で立っていた紫村さんと違う。
あれは見間違い…だったのかな。
でもなぜか、今ここにいる紫村さんは、さつきにお客さんとして来てるときと、同じ優しい表情なのに怖く感じる。
早くその場を、立ち去りたい。
だけど紫村さんの話はまだ終わりそうになく、なかなかその場を離れることができない。
「あのーすいません」
そんなとき、つばきがぼくに向かって呼びかけた。
ぼくは慌てて紫村さんに一言入れて、つばきの座っている席の方へと向かう。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
ぼくにしか聞こえないぐらいの小さな声のつばき。
「……あの客と知り合いなのか?」
「うん。さつきの方のお客さんで……」
「そっか」
つばきが紫村さんを鋭い視線でみつめてる。
「……なんかあの人ちょっと危険な感じがする…」
「えっ?」
「いや、勝手な俺のイメージだけど…」
きけん…。
さつきの前で、鋭い視線で睨んでいた紫村さんが頭をかすめる。
あのときの紫村さん、こわかった。
ぼくもこっそり、紫村さんの方を振り向く。
「――みけくん!」
「ぁっ、はい」
笑顔の紫村さんのもとへ向かう足取りが重い。
あんまり紫村さんと話したくない。
でも狭い店内は、少し歩けば目的地へとは着いてしまって………
「みけくんのおすすめとかある?まだお昼食べてなくて、結構お腹空いてるんだよね」
「……えーと…エビピラフとか美味しいですよ」
「へぇー。美味しそう。じゃあそれお願いします」
「かしこまりました」
ぼくは一礼して、その場を離れようとしたと同時に、急に右手首を紫村さんに握られた。
「あのお客さんは、みけくんの知り合いなのかな?」
紫村さんが、つばきの方を目線でさしている。
「……ぇーと。マスターの作る料理が好きなお客さんです」
思わずそう答えてしまった。
紫村さんが射抜くような、鋭い視線でつばきを見ている。
そんな紫村さんがこわい…。
「そっか。そうなんだね。じゃあエビピラフ楽しみだなぁ」
すぐいつもの笑顔に戻った紫村さん。
「……マスターに注文の品、伝えに行っても――」
ぼくは紫村さんに握られている自分の手首を見た。
「あ、呼び止めちゃってごめんね」
紫村さんが握っていた手を離したので、すぐその場を後にして、カウンターの向こうにいるじいやにエビピラフをと伝える。
「大丈夫かい?」
「…え」
「顔色が悪いよ。少し裏で休んできなさい」
じいやのその言葉に甘えて、休憩所となっている厨房の裏へと移動する。
一刻も早く紫村さんのそばを離れたかった。
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