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(3)
――――それからどのぐらいの時間がたったのだろう……。
絹子さんが心配した様子で、休ませてもらっている裏の方へとやってきた。
「みけくん大丈夫かい?」
「…あっ、はい。ごめんなさい」
「大丈夫よ。みけくん病み上がりだから無理しちゃだめよ」
絹子さんが優しく微笑んだ。
そんな絹子さんをみたら、さっきまで恐怖でいっぱいだったのに少しだけほっとできた。
「あ、椿くん今日はみけくんが終わるまで、ここで待ってるって」
「えっ?なんで…?」
「あら?もうみけくんお仕事終わる時間ね」
絹子さんが壁に掛けている時計を見ている。
え、もうそんな……?
ぼくもつられて時計を見る。
……あ、れ……?
時計の針は、まだ終わる時間の1時間前をさしている。
「…あの…絹子さん――」
「今日はそんなに忙しくないし、大丈夫よ」
「え、でも………」
いいのかな…。
「ほら。椿くんが待ってるわよ」
絹子さんが優しく微笑んで、「あっ、あのお客さんはもう帰ったから大丈夫よ」とささやいた。
そっか。
紫村さん帰ったのか。
「……それならぼく、あと1時間……」
あと1時間大丈夫ですよ。と言おうとしたけど、絹子さんが横に首を振っているので言うのをやめた。
せっかくこうやって優しく気づかってくれてるんだ。
その優しさに甘えちゃってもいいかな…。
ぼくは帰る支度をして、つばきのもとへ早足で向かう。
「ミケ大丈夫か?」
「うん。少し休んだから大丈夫」
つばきが優しくぼくのおでこに触れて、小さく「……熱はないな」と呟く。
「ミケ、今日はさつきの方は仕事なのか?」
「ううん。今日は休みだよ」
「それじゃあ、プラネタリウム行くか」
「……えっ」
「あっ、何か予定あるのか?」
「ううん。なにもないよ」
嬉しくてつい、食い気味に返事してしまった。
そんなぼくに優しく微笑むつばき。
カウンターの方でコーヒーを挽いているマスターにも挨拶して、つばきと一緒に店を出た。
「その……プラネタリウムの場所はここから近いの……?」
つばきのとなりを歩きながらたずねる。
「うーん。バスで15分ぐらいだから、わりと近いかな」
「………バス?」
バス、存在だけは知っている。
でんしゃ、と似ている乗り物だ。
またつばきと一緒に、はじめての乗り物に乗るんだなー。
ぼくはこっそり、となりにいるつばきを見上げた。
「あ、あと1分後にバスが来る。ちょうどだな」
スマホで時間をみていたつばきは、ぼくの視線には気づいてはいない。
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