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「ここで待っていたらバス、来るの?」
三角を逆さにした看板が立っているとなりに、ぼくとつばきは立っている。
「そう。これがバス停で、ここに立っていればバスの運転手さんが止まってくれるんだ」
「そうなんだね」
ちょっと緊張…してきたかも。
見た目はでんしゃと変わらないけど、はじめて乗るからちょっと怖いな……。
ぼくは自分の手を、ぎゅっと強く握りしめる。
「大丈夫」
そう言い優しくぼくの手を握ったつばき。
つばきの温かい体温が、手のひらから伝わってくる。
「ほら、バス来た」
つばきが指差す方をみると、でんしゃに似た形の乗り物がこちらへと向かってきて、どんどん近づいてくると、ぼくたちの横へと静かに止まり、扉が開いた。
つばきはぼくの手を握ったまま、開いた扉から中へと入る。
「……うわぁ……」
その中は所狭しと並んでいる座席。全部正面を向いている。
確かでんしゃは、横一列に長い座席が、向かい合って二個あったような……。
ぼくがそんな座席に驚いている間に、つばきがいっぱいある座席のひとつにぼくを案内した。
ぼくたちが座ると、バスはゆっくりと進みはじめた。
窓の外は流れるように景色が変わっていく。
つばきはぼくの手を握ったまま、一緒に窓の外を眺めている。
「すごいね」
ぼくは思わずそう声に出してしまっていた。
つばきは、そんなぼくに返事するように頷いた。
「みけ、大丈夫そうだな」
「……うん。大丈夫かも…」
ころころと変わるバスの窓の景色。
それを目で追いかけていると、不思議とはじめてバスに乗るのに全然こわくない。
『ーー次は小田』
運転手さんのアナウンスに、つばきが反応して、「みけ、このボタン押して」とぼくの目の前にある、黄色と青色のボタンを指差している。
「……え、これ…?」
ぼくはとまどいながら、つばきが指さしているボタンを押した。
『――つぎ止まります』
バスのアナウンスがそう発し、バスはゆっくりと速度をゆるめて止まると、つばきに手を引かれながら席を立った。
つばきが運転手さんの座っている横にある、透明な所にお金を入れ、バスを降りる。
ぼくも手を引かれるまま運転手さんにお礼を言って、一緒に降りた。
「ほら、ここだよ」
バスを降りて目の前にある、建物を指さしているつばき。
普通の建物よりも少し変わった形……屋根が少し丸みを帯びている。
「なんか不思議な形の屋根だね」
「そうだなー。ドームとかもこういう形だぞ」
「………どーむ…?」
ぼくははじめて聞く単語に首をかしげる。
そんなぼくにつばきは、ドームは野球をしたり、歌手がライブしたりするところ、と教えてくれた。
野球は知っている。
昔、つばきの家のテレビで見たことがある。
小さな球を投げて、それを長い棒で打って…とすごく器用でテレビに食らいついて見ちゃっていた。
そんな野球をしていた場所の屋根も、こんな丸い形なんだー。
ぼくはじーっと丸い屋根を見つめた。
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