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――そういえば今日は椿くん来ないのかね…?」 絹子さんが入り口の扉を見つめている。 絹子さんもすっかりつばきのトリコになっちゃってる……。 ぼくはそれが嬉しくて笑みがこぼれた。 ――――そのあともお客さんは比較的少なくて、のんびりとした時間が流れ、シズクでのお仕事の時間が終了した。 ぼくは絹子さんとマスターに挨拶し、さつきへと向かう。 よかった。雨は上がってる。 空はさっきまで大雨だったのが嘘かのように雲の隙間から陽光が漏れている。 その後もつばきは来なかった。 絹子さんはあからさまにがっかりしていて、その姿がおもしろくて思わず笑みがこぼれた。 つばき今日は忙しかったのかな…。 学校はお休みの期間でも、先生はお休みじゃないもんね。 さつきのお客さんの一人も学校の先生で、プリント作ったりとか、家でも仕事してるって言っていた。 つばきはやっぱりすごいなー。 つばきのことを考えていると顔がにやけてきて、慌てて顔の表情を戻す。 「……………あっ!みけくん!」 後ろから名前を呼ばれ、駆け寄ってくる足音が聞こえる。 みけくん、そう呼ぶ男の人の声はぼくが苦手な少し高めの耳に残る声で………振り返るのが怖い……。 ぼくは動くこともできずにいた。 その間にぼくを呼んだ相手は近づいていた。 「やっぱりみけくんだね。お仕事終わったの?あ、もしかして今からさつきの方のお仕事かな?ぼくも今からさつきがある方面に用事があってね。一緒に行こうよ」 なにも返事ができないまま、ぼくのとなりに立っている人物は歩き始めようとしている。 ………やだ…。 この人…紫村さんと一緒に行きたくない……。 ぼくは立ち止まったまま、どうやって断ろうか思考を巡らすけど、思いつく言い訳が出てこない。 なんでだろう。優しい笑顔、優しい声なのに怖い。 その優しさが本当の紫村さんなのか、そうではないのかわからない…だから物凄くこの人が怖い……。 どうしよう…どうしよう……。 逃げよう。走って逃げよう。 今歩いてきた方向に逃げて、シズクに向かおう。 絹子さんたちに迷惑かけちゃうけど、今はそれしか方法が思いつかない。 紫村さんは嬉しそうにいろいろ話しているが、ぼくの耳にはなにも入ってこない。 ぼくはふーっと大きく深呼吸をし、走り出す準備をする。 「――――あら?みけくんじゃない?」 よし走り出そう。そう決心し、後ろを振り向くと、そこには着物姿のさつきさんが歩いていた。 「あっ、さつきさん!」 ぼくはこの状態から抜け出せることが嬉しくて、慌ててさつきさんの方へと駆け寄る。 「みけくん今からお店に向かうのかしら?」 ぼくの頭を優しく撫でるさつきさんは、ぼーっと立っている紫村さんへと視線を向ける。

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