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「みけくん、今日はもう上がって大丈夫よ」 閉店後の片付けを始めていたぼくの頭を優しく撫でるさつきさん。 ぼくはお礼を言い、キリのいいところまで片付けを終わらせ、帰る準備をする。 「さつきさんお疲れ様でしたー」 「あっ待ってみけくん」 裏口から出ようとしていたぼくにさつきさんは駆け寄り、封筒を渡した。 「遅い時間だし、これ使って今日はタクシーでお家に帰りなさい」 ぼくの手を優しく握ってくれたさつきさん。 そんなさつきさんの手のひらが温かくて、涙腺が緩みそうになる。 「さつきさん、ありがとうございます」 「いいのよ。表に行けばタクシーがいるはずだから、さあさあ行きなさい」 ぼくはもう一度さつきさんにお礼を言い、裏口から店を出る。 表の方だよね…? さつきさんに言われたように、早足で駅がある通りへと向かう。 駅前は人でごった返していた。 23時過ぎ。まだまだ飲み足りないという人達が駅の近くのお店へと入っていく。 ぼくは、駅前のロータリーの端に何台か止まっているタクシーへとまっすぐ向かう。 タクシー…そういえばはじめて乗る……。 でんしゃ、やバスみたいにつばきと一緒じゃない。 大丈夫かな……。 ぼくは歩む足を止め、胸元に手を当てる。 緊張と不安からか、バクバクと鼓動が早くなっている。 やっぱり歩いて帰ろうかな…。 歩いてきた道を元帰るために後ろを振り向く。 ーーーあっ! ちょうど近くの居酒屋から出てきた紺色のスーツ姿の男性。 後ろ姿だけど見間違えるはずがない。つばきだ。 ぼくはつばきを見つけたことに嬉しくなり、慌てて駆け寄る。 「ーーーつば」 つばきの名を呼ぼうとしたぼくは、隣にいる女性の姿に気づく。 淡いピンク色のコートを着ている女性は、スラっとしたスタイルでつばきと並んでいると、ドラマに出てくるような人たちみたいでぼくは静かにその場を離れる。 そっか。あの人、つばきの恋人だ。 前一度見かけたときの女性だ。 つばきと楽しそうに笑いあっている。 その笑顔がすごくきれいで思わず見惚れてしまう。 現に周りにいる人たちもそんな彼女の姿に見惚れているのがわかる。 ………やっぱりお似合いのふたりだ。 遠くからではふたりの会話までは聞こえないけど、ふたりともすごく楽しそうだ。 ぼくはつばきたちから視線を逸らす。 痛い、胸がギューっと締め付けられる。 昔つばきの家で見たドラマでも、主人公の女性が胸を押さえて蹲り泣くシーンがあったのを思い出す。 あのときはわからなかったけど、今ならわかる。 こんなにも痛くて辛いんだ。 つばきには想い合っている人がいるって知っていた。 知っていたけど、最近つばきと一緒にいることが増えていたから、なおさらつばきが他の人と一緒にいるところを見るのが辛い。 ぼくがつばきの近くにいたら、あの女性にも迷惑かけちゃう……。

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