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芦屋くんがいなくなり、つばきと二人っきり。 お互い一言もしゃべることなく、静かな空間。 その沈黙がいやに長く感じる……。 そんな静かな時間に気まずくなり、こっそりとつばきの顔をみると、つばきもぼくの方をじっとみていて……。 ばっちりつばきと視線が合う。 「ミケは今ここに住んでるんだよな?」 つばきが流れる沈黙の時間を破り、ぼくはそれに小さく頷いた。 「…………つばきは……どうしてここに……?」 紫村さんのことで気が動転していたが、それも落ち着くと、今ここに……目の前につばきがいるのが夢なんじゃないかと錯覚してしまう。 「俺、4月からこの街にある小学校に勤務するんだよ」 「…………えっ」 「それに、さつきさんからミケがここにいるって聞いたから、ミケに会いに来た」 つばきが優しく微笑む。 ぼくの好きなつばきの笑顔。 涙が溢れる。 やっぱり、やっぱり、つばきは優しい。 ぼくが勝手につばきから逃げたのに………。 つばきのそばに他の人がいる。それが嫌で逃げたのに……。 「怖かったよな。大丈夫だ」 つばきは腰を落としぼくと同じ目線の高さになり、頭を優しくポンポンと撫でる。 「………つばきは……優しすぎるよ……」 つばきの優しく撫でてくれる大きな手のひらが大好きだ。 つばきの低すぎない耳にスーッと入ってくる声が大好きだ。 つばきの優しい性格が滲み出ているたれ目気味の双眸が大好きだ。 笑うと出来る目尻のシワも大好き。 つばきの全部が……… 「つばきのことが大好き」 「………えっ」 つばきが驚いたようにぼくをみている。 声に出てた……? 急激に体温が上がるのがわかる。 「………ぇーと…あの……」 つばきへの気持ちが声に出ていた。つばきに聞かれた。 気が動転して、頭が回らない。 「───俺も、ミケが好きだ」 つばきの綺麗なこげ茶色の瞳にぼくの姿が映っている。 まっすぐぼくをみているつばきに、ぼくも視線を逸らすことが出来ず、つばきをじっとみつめる。 「ミケのまっすぐで優しいところ、真面目で頑張り屋なところ、ミケの真っ黒でさらさらな髪も、まん丸で綺麗な瞳も………ミケの全部が好きだ」 ポロポロと流れる出る涙をつばきの綺麗な指が優しく拭う。 まっすぐ見つめるつばきの視線、つばきの気持ちが伝わってくる。 「……ぁ……」 なにか言わないと。つばきのまっすぐな気持ちに答えないと。わかってるけど言葉が出てこない。 ぼくはふいにあのときの──つばきと綺麗な女性がふたり笑いあっている姿が頭を掠めた。 「…………つばきには……あの人がいるんだ……」 「あの人って?」 声に出していたようで、つばきが不思議そうにぼくをみている。 「……あっ…えーと……」 言葉につまる。あの女性のことを聞いてぼくが想像していた通りの答えが返ってきたら………。

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