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 *  僕は男に言われたとおりシャワーを浴び、脱衣場で置いてあったちょっと厚手のスウェットに着替える。  あの男のものなので、僕にはかなり大きくて裾も指まで完全に隠してしまい、ズボンの裾を引きずりながら男のもとへ行く。 「うわ、かなり大きいな」  ソファーに座っていた男は俺を見て笑い、手が見えるように袖を曲げ、ズボンもくるぶしまで曲げてくれた。 「じゃあ、俺もちょっとシャワー浴びてくるから、ドライヤーで髪乾かせよ」  ドライヤーを机に置き、風呂場へと行った。  僕はとりあえず、さっきまで男が座っていたソファーに座る。  男の体温がまだ残っていて、生暖かい。  髪なんて乾かさなくてもいいけど。  てか、めんどくさい。  ぼーっと部屋を見渡した。  全体的に物が少なく、1Kの部屋だが、広く感じる。 「――髪乾かしとけって言ったんだけど」  いつの間にかシャワーを浴び終わって此方に来ていた男が、ソファーに座ってる俺の後ろに立つ。 「……乾かすの…めんどくさい」 「いい。俺が乾かす」  そう言い、机の上に置いてるドライヤーを取り、ガシガシと僕の髪に指を入れる。  乱暴に見せかけて、髪を触る指は優しく、気持ちよくて目を瞑ってされるがままな僕。 「…てかお前の髪、長いな。鬱陶しくねぇーの?」  肩まで伸びている髪を優しく指で梳かす。  男の長い指が首筋に当たり、こそばゆい。 「前髪も長いし。そんなんで、前見えるのか?」  顔全体を覆っている前髪にもドライヤーの風を当てる。 「よし、終わり」  ドライヤーの電源を切り、さっきまで風で靡いていた前髪が落ち一気に顔を隠す。 「てか、お前、可愛い顔してるんだな」  ドライヤーのコードを綺麗に纏めている。  自分は髪乾かさないのか。 「何か見てるこっちが鬱陶しいから、これで……」  男はドライヤーのコードを纏めていた、黒色の柔らかい素材のゴムみたいなもので、僕の前髪を上にあげて結ぶ。 「ほんとはヘアゴムかなんかで結んだほうがいいんだろうけど、これで」  視界が一気にクリアになり、目の前には明るい室内では初めて見る男の顔。  光の当たりで、所々、明るい茶色に変化する濡れた髪はあの時は見えなかったが、左は横にかけている。  ただ、チャラい感じじゃなくて、髪は全体的に短いのでそれは妙に爽やかに見える。  二重の双眸もやっぱりたれ目で、口角の上がった唇をもつ顔にすごく似合った髪型だ。 「やっぱりお前、可愛い顔してるな」  たれ目を下げて、笑う。  目尻にはシワができてる。 「腹減っただろ?何か用意してやるよ」  ポンポンと優しく頭を撫で、キッチンへと向かった。  *  ただぼーっとソファーに座っていた僕の前に置かれた、皿。 「俺、料理は苦手だから、こんなもんしか作れねーけど…」  自分の分も置き、僕の隣に座った男。  卵とネギが入った炒飯。  じっと卵炒飯を見詰めてる僕に、レンゲを持たせた。 「そんな見るな。恥ずかしい。食うぞ。味は大丈夫だと思う…」  男は小さく「いただきます」と呟き、自分の作った炒飯を食べ始める。

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