7 / 88

(3)

「うんうん。美味い美味い」  男は首を縦に振りながら、笑顔で僕の顔を見る。  今気づいだが、右頬にえくぼができている。  そのえくぼが美形な男を少し可愛くみせている。 「………ありがとう」  小さく呟いた自分の声が思ってたより掠れていた。  べちょべちょの炒飯は、温かくて、誰かと一緒に食べる。  それだけで、美味しく感じる。  夢中で頬張っている僕に優しく笑いかけた男。 「…ほら、喉詰まらせるぞ」  お茶が入ったコップを僕の前に置く。  僕をそのコップに入ってるお茶を全部飲み干した。 「てか、お前、名前なんていうの?」 「………」  名前…… 「俺は、卯海椿(うみ つばき)」 「……うみ」 「どっちが名前かわからないような、ややこしい名前だけど…」  右側にできてるえくぼをじっと見る。 「………うみ、うみ、うみ…」  小さく何度も男の名前を呟く。 「――いや、できれば、苗字じゃなくて名前で呼んでほしいんだけど…?」 「……つばき?」 「そう。俺の名前にぴったりだろ?」  にやにやと得意げな顔で笑ってる。  僕はぴったりかどうかなんて分からなくて、首を傾げる。  そんな僕を見た、つばきは目をガーッと見開く。  大きい瞳が、これでもかというぐらい大きくなって、ちょっと恐い。 「椿の花言葉、知らない?」  ……花言葉って何だろう…? 「知らないのか。そうか。まぁ気が向いたら調べてみろよ」 「……つばきって花なの…?」  小さな疑問をふと口に出してしまっていた。 「そこからかよ。椿の花見たことないか?」  僕は首を思いっきり振る。  つばきは、「なるほどな…」と小さくつぶやき、ポケットから取り出した黒色の機械を指で操作している。 「………何、それ?」  その黒い機械を指差す。  手のひらに収まるぐらいの大きさのやつを、器用に指で操作しているつばき。 「…?お前、スマホも知らねーのか?」 「……すまほ?」 「まじかよ。今時の小学生ってスマホ知らねーの?でか最近は子供でさえも持ってる時代じゃねーの…」  驚いたように、僕を見ている。  そんな顔でさえも美形な男だと、かっこいい。  てか、僕、小学生じゃないし。

ともだちにシェアしよう!