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「――ほら、これが椿の花」  そう言い、すまほとやらを見せてきた。  画面いっぱいに映る、赤い花。 「……綺麗…」 「そうだろ?椿って赤以外にも、白色とかピンクとかもあるんだ」  そう言いながら、白色の花びらとピンクの花びらの椿も見せる。 「へぇー。全部綺麗……」  画面を食い入るように見てる僕に、もう一度、名前を聞いてきたつばき。  自分の名前なんてわからない…。  一度も名前なんて呼ばれたことないもん…。 「…………つばきの好きなように呼んで」  僕は声が震えながら、か細く言った。  そんな僕の声がばっちり聞こえたのか、少し驚いたような顔をしているつばき。 「……うーん。そうだな…。じゃあミケで」 「…ミケ…」 「何かお前、見た目もだけど、雰囲気も猫みたいだし。猫と言ったらミケだろ」  得意げにふふんと鼻を伸ばしている。  ころころ表情の変わるつばきの顔が面白くて、じーっと見ていた。 「てかミケのその大きな瞳で見られると照れるんだけど?」  次は照れたように笑っているつばき。  やっぱり、おもしろい……。 「おおー!ミケが笑った!」  つばきの顔を見ていたら、頬が緩んでしまったみたいで、そんな僕の顔を見て喜んでいるつばき。 「ミケは笑っていたほうがいいな」  嬉しそうに言ったつばきの右頬は綺麗に窪みができて、目尻も下がっている。  そんなつばきの笑顔が、温かくて、ずっと見ていたい。 「ミケ、お前はベットで寝ろよ」  炒飯を食べ終わり、食器を洗ったつばきがベットの布団を捲って僕をベットに誘導したので、大人しく布団に入った。  自分の髪と同じ匂いのシャンプーの香りに混じって、つばきの匂いかな…爽やかな香りが染み付いている布団。 「ミケおやすみ」  僕の胸をポンポンと優しく叩いてくれるつばきの顔を見詰めた。

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