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灰色生活に温かい兆し

 つばきの体温が心地よくていつの間にか眠ってしまっていた。  昨日の夜、ソファーでうたた寝してしまっていた僕をベットまで運んでくれたつばき。  2日続けて、つばきの匂いの染み付いた布団で眠れることを幸せに感じた。  でもそんな幸せな気持ちの僕を打ち壊すように、嫌な夢を見てしまった。  ニヤニヤ顔で俺を組み敷いて、上から見下ろす、無精ひげの男。  何度もやめろ、と言ってもきかず、僕の手をロープで縛る。  そのまま嫌がる僕なんてお構いなしに、自分の性欲だけを発散させるように動く腰。  気持ち悪くて、痛くて、一生あのニヤケ顔を忘れることができない――。  パチっと目を開いたときには、涙が溢れ出ていた。  僕は一気に不安に駆られ、キッチンにいるつばきのもとへ近づいた。  つばきの優しい声。眉まで下がり、目尻にしわができる優しい微笑み。  右頬にできるえくぼ。コーヒー色の瞳。  何もかもが僕を安心させる。  こんなにも優しいつばき。  いつも貰ってばかりの僕、何かつばきの役に立つようなことがしたい。  そういう感情を密かに抱いてしまった。  僕を抱きついて眠っているつばきの綺麗な髪を指で梳く。  太陽で光っているコーヒー色の髪。  大人っぽい容姿のつばきだが、眠っていると少しあどけさを感じる。 「……んっ…」  目が覚めたのか、掠れた声を出し、眉をひそめながらゆっくりと開く瞼。 「久しぶりにこんなにがっちり寝たわ」  ひとつ大きなあくびをしたつばき。 「よし、朝飯食うぞ。ちょっと待ってろ」  完全に覚醒したつばきは俺の頭を撫で、起き上がった。  あ、この大きなつばきの手のひらも好きだなー。  * 「ちょっと焦げちゃったけど、食えないことはない」  いつの間にか買ったのか、歯ブラシで僕の歯を磨いてくれたつばきはキッチンで朝食の準備をしている。  20分ぐらいできた朝食は、焼いた食パンに少し焦げ目が目立つ目玉焼きにホットミルク。つばきはコーヒーだけど。  俺の隣に座り、両手を合わせて「いただきます」と言ったつばき。  その姿をじーっと見ていた僕に、「食べる前はちゃんと言うんだぞ」と教えてくれたので、僕も真似して両手を合わせて「いただきます」と呟く。  つばきはそんな僕を見て、笑顔で頭を撫でた。

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