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「つばきは名前にうみが入ってるからいいな…」
「あぁー。だから最初、名前教えたとき、うみを何回も呟いてたのか」
「うん。いいなー」
つばきの口角が綺麗に上がってる形のいい唇を見詰める。
「じゃあ、お前も卯海って苗字にすればいいんじゃね?」
冗談っぽく言ったつばきは、僕の顔を見た。
「……そうする!卯海ミケって名前にする!」
つばきがつけてくれた名前。
僕の好きな、うみという言葉も入ってる最高な名前…。
「いやいや。冗談で言ったんだけどな…」
困ったように呟いたつばきの声は、嬉しい気持ちでいっぱいだった僕の耳には入らなかった。
*
スーパーで僕の服を何着か買い、ついでにと食料も買う。
「……これ。コーヒー…?」
丸い容器に入ってる、つばきの好きなコーヒー色の物体。
それを不思議そうに見ていた僕に気づいたつばき。
「それはコーヒーゼリーだ。これなら子どものミケでも食べれるかもな…」
僕にも食べれる…?
つばきは僕の持っていた容器をカゴに入れた。
「――これと一緒に食べれば、ミケも食べれるはずだ」
僕の手を取って、冷凍物が並んでいる棚に連れて行き、先ほどと同じような丸い紙の容器の物をカゴに入れる。
「……アイス…?」
「おっ。アイスは知ってんだな」
僕のか細い声にもすぐさま反応してくれるつばきは終始、笑顔だ。
スーパーから帰ってきた僕たち。
ちょうど昼時で昼食は、スーパーで買った弁当をふたりで食べた。
「よし、デザートだ」
つばきは空の弁当箱をゴミ箱に捨てて、先ほど買ったコーヒーゼリーとバニラアイス、皿とスプーンを持って此方に戻ってきた。
皿にコーヒーゼリーを入れ、上にバニラアイスを乗せた。
「ほら、食べてみろ」
スプーンを僕に渡し、自分の分もコーヒーゼリーにアイスを乗せる。
僕は期待とちょっとした不安の感情のまま、スプーンでアイスとコーヒーゼリーを掬って口に入れる。
「……美味しい…そんなに苦くない…」
「うんうん。やっぱり、コーヒーゼリーにバニラアイスは黄金の組み合わせだからな」
嬉しそうに自分も食べ始めたつばき。
僕は無心で食べた。
そんな僕の姿を笑顔で見ているつばき。
こういう何気ない日常が幸せだと感じるようになった。
つばきのおかげなのかな。
ついこの前まで、先の見えない闇色の日常だったのに、闇色の向こうから少しの光が見え始めているような気がした――。
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