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 部屋の中での、ミケの定位置になっているソファーに膝を抱えて、口を尖らせている。  俺はそんなミケの姿が可愛くて、ふっと笑い頭を撫でる。  今朝、俺が結んだままの前髪がピョンとちょんまげになっている。  その前髪を指先で弄る。  ミケは気持ちよさそうに目を瞑っている。  白すぎる肌。二重の幅がくっきりある瞼。赤色の小さい唇。小さな顔。  会った頃よりは少しは肉が付いたが、まだまだ細い華奢すぎる身体。 「お前、また昼食ってないだろ?」  俺は前髪を弄るのをやめ、キッチンで手を洗いに行く。  ……ん?  妙にシンクと周りが汚れている… 「……食べたよ……」  小さな声で答えたミケ。 「何食ったんだ?冷凍してたコロッケか?」  俺はミケのために、惣菜を多めに買って冷凍している。  冷凍庫を開けたが、惣菜の数は減ってない。 「………オムライス?だったけ?あのご飯を卵で包んだやつ…」  ゆっくりとキッチンに近づいたミケ。  オムライス?  オムライスなんて買ってたかな…?  俺は自分の記憶を辿ったが、惣菜でオムライスを買った覚えはない。 「……あのぉ、自分で作ってみたの……。つばきもオムライス好きでしょ?」  ミケは遠慮がちに冷蔵庫を開けて、ラップをかけてある皿を取り出した。  少し不格好な形のオムライス。  卵は破れ、綺麗にご飯が包まれておらず、ケチャップライスが丸見えな部分もある。 「まだまだ綺麗にできないけど……味は大丈夫だよ…?」  ミケの持っている皿の中身を凝視していた俺に上目遣いで見た。 「――ミケが作ったのか?」 「うん。だから食べてみて」  俺の問い掛けに満面の笑みを浮かべ、電子レンジで温め始めた。  俺は未だに信じられず、その場に立ち止まったまま。  温めが終わり、ミケが皿を取り出そうとしている姿を見て我に返り、俺が取り出して机に持っていく。  ミケはその後ろから、スプーンとケチャップを持ってついてくる。  ソファーに座り、ラップを外した。  すぐさま、ミケがケチャップでハート型を描き、俺にスプーンを渡した。  「いただきます」と呟き、恐る恐るスプーンで掬う。  ミケはそんな俺の姿を瞬きもせず、じっと大きな瞳で見ている。 「…うん。美味い!」  ちょっと焦げている部分もあるけど、食べれない程ではない。  そんなことより、ミケが俺のために作ってくれた、それが途轍もなく嬉しかった。 「よかったぁ。まだ下手くそだけど、つばきのために料理頑張るね。つばきは僕のために色々してくれてるし、僕もつばきに何か恩返ししたい!」  笑顔でそう言ったミケ。  そんなミケを思わずを抱きしめてしまった。  いきなり抱きしめられたミケは動揺しているが、その内、ゆっくりと俺の背中に腕を回した。  俺と同じシャンプーに、服は俺の服と同じ洗剤の香りがする。  それが嬉しくて、愛おしい――。  最初は仔猫を拾った感覚だったけど、今の俺はミケのことをひとりの人間として愛おしく感じている。  あれ、これが恋、なのか……?  自分のミケに対する感情がわからなくて、思わず強く抱きしめすぎていたようで……ミケが俺の背中をトントンと叩いてきた。俺は慌ててミケから離れた。 「…ごめん」  そんな俺に気にしてないとばかりに笑ったミケは、俺の買ってきた弁当を開いた。 「もう少し料理上手くなったら、僕が作るから弁当とか買ってこなくていいからね」  ミケは俺の買ってきた、幕内弁当を食べ始めた。

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