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 ***  今日はバイトが休みの俺は、学校が終わりすぐ家に帰った。  今朝、バイトは休みだから、早く帰るとミケには伝えといた。  玄関のドアを開けると、目の前に座って「おかえり」と微笑むミケ。  必ず俺が帰ってくると、そこでお迎えしてくれる。  俺はミケに「ただいま」と頭をポンポン撫でる。  目を瞑って黙って撫でられている姿が可愛い。  俺はすぐ制服から私服に着替え、ミケにももこもこ生地の温かいコートを着せる。 「今日はお出かけするぞ」 「…お出かけ?」  キョトンとした顔をしているミケと手を繋ぎ、マンションを出る。  この街は海沿いの田舎町。  店という店はない。  駅まで行けば、スーパーやちょっとした飲み屋はあるが。  若者向けの店や、ファーストフード店、書店までもない。  不便といえば不便な町だ。  ただ、電車で2駅行けば、ちょっとこなれた都会に着くから、若者はみんなそこに買い物に行く。  今日はそこにミケと行くために連れ出した。  というか、ミケはほとんど、というか全然、学校に通ってなかったみたいで、漢字が読めない。  ひらがなは辛うじて読めるみたいだが…。  さすがに日本人だし、常用漢字ぐらいは読み書きできないとこれからが大変だろうから、書店でドリルを買うためにわざわざ電車を使って2駅離れた街へ向かう。  あ、計算ドリルもか。  足し算、引き算、掛け算、割り算はできるようにならないとな。  切符をふたり分買い、電車へ乗る。  ミケは終始きょろきょろと周りを見ている。  前髪で隠れているが、きっと大きな瞳をこれでもかというぐらい見開いてるんだろうな。  俺は隣に座って窓の外を眺めているミケを見詰めた。 「…ね、つばき、今乗っているやつ何ていうんだ?」  いきなり此方を振り向いたミケ。  見詰めていたことが恥ずかしくなり、コホンと白々しい咳払いをする。 「……あっ、これは電車だ」 「でんしゃ。でんしゃ。でんしゃ」  何度も呟いたミケは、もう一度窓の外に視線を向けた。  目当ての駅に着き、はぐれないようにミケと手を繋いで電車を降りる。  そのまま、駅近くの大きい書店に入る。  俺たちの住んでいる町と比べられないぐらいの人の多さ。  夕方の時間帯とあり、賑わっている。  ミケは俺の手をぎゅっと少し強く握る。  そっか。ミケはこんなにも人の多いところは初めてか。  俺もミケの手をぎゅっと握り返して、ミケの顔を見た。  ミケは不安げに口がへの字に下がった顔で、見上げて俺の顔を見ている。  俺は微笑み、ミケの頭に手を乗せ「大丈夫。手を繋いでたら俺とはぐれない」と優しく言った。  ミケは少し顔を緩め、「うん」と頷いた。

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