22 / 88

灰色生活に輝かしい視界を

 目が覚めてすぐ横に眠っているつばきの寝顔が視界に入った。  眠っているとちょっと幼い顔立ちになる。  最近、というか僕があの夢を見て一緒に寝てほしいと頼んだ日から、ずっと僕の横に寝てくれてるつばき。  狭いベット。  僕を優しく抱きしめてくれるつばきの温かい胸の中は落ち着く。  僕はつばきの寝顔をじっと見つめた。 「……んーっ」  掠れた声を出したつばきのコーヒー色の瞳がゆっくり開いて、僕の顔を映し出す。 「ミケおはよう」 「おはよう、つばき」  優しく微笑むつばきに僕も顔が緩む。  そんな僕の長い前髪を指先で優しく撫でる。 「なぁ、ミケその前髪切らないのか?」  僕の前髪を上に上げた。  どうでもよかった。自分の髪がどれだけ長くても…。  でも―― 「……つばきが切ってくれるなら…」  つばきが、切ってくれるならそれはそれでいいかもしれない…。 「え?俺が??」 「つばきに切ってもらいたい」  固まったまま僕の顔を見ている。  前髪を撫でていた指先までも、僕の前髪をつまんだまま止まっている。 「いやいや。俺、素人だよ?」  数秒固まっていたが、我に返ったように言ったつばき。 「いいの。つばきに切ってもらいたいから」 「……まぁ、ミケがそんなに言うなら…」  前髪から頭のてっぺんに移動した手のひらが、ポンポンと優しく撫でた。  この温かい手なら、どれだけ触られても、髪を切られても嬉しい。  僕は目を細めながら、大人しく頭を撫でられた。  つばきは笑いながら「ミケ、ねこだなー」なんて呟いてる。 「よし。朝ごはん食べるか」  頭から手を離したつばきがゆっくり起き上がる。 「朝、僕が目玉焼き作る」 「おっ!ミケが作るなら美味しいな。楽しみ」  笑顔のつばき。  つばきはこんなにも笑顔を浮かべるから、えくぼが出来るんだろうなー。  右頬に綺麗にできるくぼみを見つめる。  焼いた食パンに目玉焼きという少ないメニュー。  それでも美味しい美味しいって何度も言いながら完食したつばき。  学校の制服姿のつばき。  そういえば、最初につばきが僕に声をかけてくれた時もこの服装だったな…。  まだ1ヶ月も経ってないのに、少し懐かしく感じる。 「ミケ最近ほんと笑うようになったな」  また頬が緩んでいた僕を真っ直ぐな視線で見ているつばき。  それも、全部…… 「つばきのおかげかな…」 「…え?」  思わず声に出してしまっていたが、つばきには聞こえてなかったようで聞き返してきたが、「何でもないよ」と首を横に振った。

ともだちにシェアしよう!