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「あ、そうだ。今日終業式で昼までなんだよ。だから昼過ぎには帰ってくるな」
玄関先。
ドアを開ける前に僕の方を振り向いてそう言ったつばき。
「……あ…」
「まぁ夕方からバイトだけど」
苦笑いを浮かべている。
「じゃあいってきます」
「いってらっしゃい」
笑顔のつばきに手を振った。
どうしよう。
今日も牛乳回収と夕刊配達のバイトがあるんだよな。
つばきには言ってないし、言わないでおこうと思ってる。
今日早く帰ってくるならバレちゃうよね…。
いつもならドリルを解いたり、星の図鑑を見るが今日はどうしようか考えてそれどころではなかった。
とりあえず、帰ってくるつばきのためにお昼は作ろうとキッチンに立つ。
今日はナポリタンを作った。
つばきはどうやら、ケチャップが好きみたいだ。
ケチャップを使うナポリタンを初めて作ってみたが見た目はなかなかの出来だ。
お皿に移し、フライパンなどを洗い終わったところで、つばきのコツコツという足音が聞こえてきたので、慌てて玄関に向かう。
「ただいま」
すぐドアが開いて、つばきが入ってきた。
「なんかいい匂いする」
靴を脱ぎながら呟いたので、「お昼ごはん作った」と答えた。
「え、まじ?じゃあ早く食べよう」
嬉しそうに部屋の中へと入っていくつばきの後をついていく。
キッチンで手を洗い、制服を脱いで部屋着に着替えたつばきがソファーに座ったので、僕はナポリタンをつばきの座ってるソファーの前の机に置く。
「ナポリタンじゃん。美味そう」
一段と輝いている瞳。
オムライスの時もこういう表情をする。
ってことはもしかしたら、ナポリタンはオムライスと同じぐらい好きなのかも。
「いただきます」と手を合わせて、食べ始めたつばき。
「めちゃくちゃ美味い。ほんと最近、ミケ料理の腕上げてきてるなー」
キラキラ瞳で笑顔を浮かべるつばきは、大人っぽい顔つきから想像もつかないぐらい無邪気な子供みたいでちょっと可愛い。
僕もいただきますとしっかり手を合わせてから、自分で作ったナポリタンに手を付ける。
いただきますも食べ終わったときのごちそうさまも、他の挨拶。おはよう、こんにちは、こんばんはなど全部こういう時に言うって教えてくれたのもつばきだったな。
「そうだ。今から髪切るか」
食べ終わりお皿を洗い終わったつばきが僕に声をかけた。
「つばきがいいなら……」
「よし、じゃあ切ろう」
つばきが脱衣所に僕を連れて行き、鏡の前に立たせる。
その下にはいらなくなったチラシなどを敷いてある。
僕は目を瞑ったままつばきにされるがまま動かずにいた。
つばきの長い指がおでこや頬に微かに当たる。
「よし出来た!」
つばきの声で僕はゆっくり閉じていた目を開ける。
「……うわぁ」
今まで長い前髪の隙間から見えていた視界が鮮明に広がっている。
今までほとんど髪で隠れていた自分の顔。
その顔、自分の顔つきがはっきりとわかる。
「てか、俺素人のわりに結構上手くできてない?」
少し誇らしげな表情をしているつばき。
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