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第9話
夜中に庭におりて、そのままいたら、熱が出た。
「お前のようなへなちょこが、薄着で夜中に外に出て、朝までそのままとか……熱が出て当たり前だ、バカたれ」
お屋敷の人が紅を見つけて、大慌てで寝床に押し込んでくれた。
薬を飲んで、濡れた手巾で熱をさましながら、ひと眠りしたら、隣にロボがいた。
獣型でいてもわかるくらいに、苦い顔をしてロボが紅を見下ろす。
ぺちん、とロボに額を叩かれた。
ロボの手は肉球がある。
「ロボ……怖いのはもういやだ。紅に教えて」
「なにを」
「ちゃんと教えて。ロボは何をしている人? 紅はどうしてここにいるの? 藍はどこへ行ったの?」
「熱が下がったらな」
「今教えて」
「紅」
夢を見るのだもの。
わからないことだらけで、怖い。
「紅は、誰かに連れてこられて、紅になった」
「覚えているのか?!」
「全部じゃない。うっすらとだけ。だから、余計に怖い」
「怖い?」
「次に何が起きるのかわからないのは、怖い」
自分が育ってきた経過が否定されるのは怖い。
藍がいないのは怖い。
なにもかもが、わからないことだらけで、怖いばかり。
「俺のものになればいい」
「それはダメ」
「何故?」
「紅はまだ子どもだし……それに、違うと思うの。ロボは紅のじゃない」
じわっと視界がにじむ。
最近紅は泣いてばかり。
でも、そう思うのだから、仕方がない。
「分化するまではいけないとか、全きモノ同士じゃないといけないとか、誰かが番を引き合わせてくれるとか、紅は信じているんだな」
「違うの?」
「力のあるアルファやオメガが大事にされるのはいいことだ。けど、番は巡り合うもので、自分で探すもの。性別は関係ない。全きモノでも混合種族でも、いいんだよ。紅が好きならいいんだ」
「でも、御館でそう教わった」
「あそこは……そうやって、全きモノを囲い込んで、王宮に都合のいいように利用していたんだ」
ぺろりとロボが紅を舐める。
「紅は利用されていたの?」
「利用するために、どこかから連れてこられて、育てられていた」
「コネホは優しかったよ」
「そうだな。侍女や侍従たちは、知らなかったろう。王宮の言いなりだったのは、一部のものだけでお前たちは大事にされていたよ」
「よかった」
コネホに嘘をつかれていたわけでは、ないのだ。
ピルピルと震える、ウサギの耳を思い出した。
「寝なさい」
「ロボ」
「覚えておけ。お前は、自由だ」
「ロボ?」
「俺はお前を気に入っているが、お前はお前の好きな相手を選んでいいんだ」
ロボは紅が抱えやすいところに、尻尾を置いてくれる。
ふっさりした狼の尻尾。
抱きついて、目を閉じた。
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