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第11話

「紅!」 トポさまの診察は、途中で終わってしまった。 紅はまだ少し熱があって、部屋から出るのは許されない。 寝台に入るのは嫌で、長椅子でだらりとしていると、ロボが飛び込んできた。 「何?」 「来い! ああ、違う。そのままそこにいろ。いいな、うろつくんじゃないぞ!」 「え?」 そういって部屋を横切ると、窓を大きく開け放って呼びかけた。 「いるか?! ここだ!」 庭の方がバタバタとする。 侵入者は許さないと、ロボがいい切っていたのに、そこから入ってきたのは。 「ガート……?」 「紅」 「藍!」 「紅!」 その姿を認めたとたん、涙が出た。 藍だ。 紅の藍。 なのに何かが違う。 紅が藍に抱きつく前に、ロボが藍のことを抱きしめてしまう。 ぶわっと、甘い香りが部屋中に広がった。 なに? 「ふぁ……ぁ、ん、まって……お願い、少しでいいの……」 「わかっている……わかっているんだが……」 藍が潤んだ目でロボを見る。 ロボが苦しそうに、答える。 ああ。 そうだ。 こんなに好ましいのに、ロボが違うって思った理由。 ロボは、藍の番なんだ。 「紅……」 ロボの腕に囲われたまま、藍が手を伸ばす。 「うん。よかったね、藍。あとで、名前を教えてね」 「うん、紅もね。怖くないよ。溶けちゃいそうなの。だから、受け入れてね」 藍が紅の手をつかんで、唇をつけた。 紅も、藍の手をつかんで、唇を寄せる。 ふわりと紅の体から、藍とよく似た――でも、違う匂いが湧き上がる。 ロボが藍を抱き上げて、部屋を出ていく。 紅の部屋には、ガートと紅が残された。 「紅、さま……」 後ろからそっと、包むようにガートが抱きしめてくれる。 震えがくるから怖い、と思っていたガートの声。 今はわかる。 ガートの声は、紅を変えてしまう。 だから怖かったの。 「ガート……」 「ご無事でよかった……」 「ど、して?」 あんなに待っていたのに、見つからなかった。 なのに、なぜ? 「藍さまが少し前に分化されたんです。その時に、トポ殿に診ていただいて……今日、紅を診て気がついたのだそうですよ」 「御館の人たちの、取り調べの書類に、名前なかった……」 「オレは、裏切り者なので」 「え?」 「あなたを救いたくて、館に入り込んでいたんです。元々は、ロボさまの下に。顔も直に見たことないくらいに、下っ端ですが」 ああ。 それで。 そんな理由で、見つからなかったのね。 「紅さま……どうか」 「なあに?」 「番に、とは望ません……けれど、どうかお情けを……」 「だめ」 「紅さま……」 ガートは、御館の中を知っているから、そういうのだろうなって思った。 全きモノは全きモノと。 紅は、混合種族を受け入れない。 そう思っているのでしょう? 違うもの。 藍も言っていたでしょう? 受け入れると気持ちが溶けそうよって。 「ダメ……紅は、一夜のお情けはダメなの……」 「紅」 「好き……ガート……紅のものになって」

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