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第3話

 その後、鉢の植え替えをきっかけに、時間ができた時には真城さんの家に通うようになった。主に植物のお世話とそのことに対して相談に乗りに。  訪ねる時間帯はバラバラ。例えば朝の用意が一通り終わって出足がのんびりしていた時や、昼休憩が長く取れそうな時、または配達が多くあった日の終わりに。そんな感じに仕事の合間を見つけて訪ねるようにしていたからか、真城さんも最初の時のように過剰に気遣うこともなくなり、あっという間に昔からの知り合いのように距離を縮められた。  そんな風にあっという間に距離が縮まったのは、きっと真城さんがアルファらしくなくて俺がオメガらしくなかったのが大きいと思う。  それとなくお互いを意識し合って気の合う相手を探し、くっつくのが当たり前のアルファとオメガという関係から一歩引いた、はみ出しもので残りもの。そんな意識がお互いにあるから、気持ちがわかるというか、落ち着けるというか。  だから例えば俺が一人になりたい時に行く花の綺麗な公園を勧めてみれば、大層興味を引いたらしく詳しく場所を聞かれた。そういう時におざなりじゃなくちゃんと調べた上で、「今度行ってみよう」とわくわくした様子で言われるとこっちまで嬉しくなるわけで。  一緒にいる時間はお互い楽でいられることが大きくて、気づけば真城さんは俺のことを気軽にくん付で呼ぶようになり、植物のお世話の面で信頼されたのかいつでも顔を出してくれと鍵まで渡されてしまった。  その代わりに俺は真城さんの代わりにちょっとした買い出しもするようになり、少し前に偶然会っただけとは思えないくらいの仲になっていた。  ちなみに仕事として真城さんの家へ行くことがすんなり了承されたのは、あの後真城さんが直にミカさんに電話をして丁寧に説明をしたからだ。ミカさんには、お得意様になりそうなお客様だから、他の仕事に影響が出ない程度にしっかり接客してこいと言われた。さすがの経営者。  そんな真城さんは言葉通りいつも家にいて仕事をしている。  どういう仕事なのか俺にはよくわからないけれど、オフィスが家で、コンプレックスのある自分の姿を見せたくないというだけで仕事上のやりとりは普通にしているらしく、例えば電話をしている姿だけで有能な人なんだなとわかるくらいその様はかっこよくて。  その姿を人に見せないなんてもったいないとは思うけど、本人は自分の姿を良く思っていないらしく、どうしても人前に出たがらない。  基本的に物は通販で買うし、ちょっと足りないものがあってもコンビニやスーパーにも行かないそうだ。  だからバレンタインの日に俺とエレベーターで会ったのはかなり珍しい外出だったようで、どうしても出て来いと知り合いに呼び出されたんだと教えてくれた。  曰く、大事な食事会だと聞いて行ってみたら、『バレンタインの夜を一人で過ごすのは可哀想だ』と気を遣われ(大きなお世話だと真城さんは鼻にしわを作って不快さを表した)オメガの子たちが揃えられていたそうな。どうも合コンみたいなものをセッティングされていたらしい。  ついでに言うとホワイトデーも同じ相手の同じ手に引っかかったらしく、真城さんがものすごく素直でいい人だということを思い知らされた。  「アルファらしくないとよく言われるよ」なんて本人は困ったように笑っていたけれど、俺は優しい人なんだと思う。  ちなみにただの優しい人じゃないというのは、俺をたびたび借りるのは悪いからと、普通の花の注文だけでなく、仕事で贈る花(スタンドや胡蝶蘭なんかもすべて)を一括して発注してくれるようになったおかげでミカさんに大層気に入られた点で証明されたと思う。  ともあれそんな風に穏やかな日々を過ごしていたせいで、たぶん俺は少し気を抜いていたんだと思う。  真城さんに会って、アルファというものがそれほど恐い存在じゃないかもしれないと思いだした俺に、神様が緊張のスパイスを与えるくらいには。

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