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第7話

 カクテルを飲み岬生と尾上と共に大学や好きなことについて話を弾ませる。すると店員の女性が店の奥から姿を現し、樹の顔を見た瞬間それを苦いものに変えた。  怒られるかもしれないとは思ったが、露骨なまでの態度に笑ってしまいそうになる。別に店に来るくらいいいだろうに、過去に似たようなオメガがいたのかもしれないがあまりにも態度に出し過ぎだ。  きっと彼女は岬生の妻ではない。態度からそう思う。岬生がアルファで樹がオメガ。だからあるかもしれない可能性を排除したいだけかもしれない。  それにしたって、睨まれすぎな気もするが。 「へえ、じゃあ奥さんいて子供もいるんですか」 「この仕事してるからあんまり顔を合わせられないんだけど、可愛いよ」  子供までいるんじゃ、風当たりも強いはずだ。きっと家庭を壊しかねないと思われているのだろう。それは相手も自分を好きになってしまったときだけで、好きになられないのなら問題ないはずなのに。  岬生と尾上は毛並みのトリートメントについて話をしていた。盛り上がっているそれを邪魔もできず、睨みつけられる視線を感じながらただただ岬生のことを見続けていた。  また飲みすぎてしまった。尾上に寄りかかり、最寄駅まで送ってもらうことになる。気をつけて、と優しく言われた言葉に頷き、これからも来るならと交換した連絡先に好きが溢れる。  電車内で尾上のふかふかの毛並みに寄りかかり、画面を眺めていると1件のメッセージが入る。 『お酒飲むとフェロモン出ちゃうみたいだから気をつけた方がいいかもね』  汗をかいた絵文字つきのそれに、それは好きになってしまったからなのに、気付かれていないのだと理解しただけで胸が締め付けられる錯覚に陥った。 「もう好き……」 「えっ、俺を?」 「んなわけねえだろ鏡見ろバカ猫」  既婚者で子供がいるのなら、一過性の性欲でどうこうはならないはず。もしその妻がオメガで運命の番なら、絶対に好きになられない。  だから、好きになってしまう。携帯電話をポケットにしまい込み、樹はにやけてしまう顔を隠すため両手で覆い隠した。

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