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第8話
大学終わりにUboatに通い、岬生と会話し、帰って眠る生活をしているとアルファからの干渉があまりなくなった。
ベータ達と同じように生活しているオメガはそういない。だから槍玉に上がりやすく、アルファの中でもあまり素行のよくないタイプからは度々遊びにでもと誘われていたのだが、このところはめっきり減った、というか皆無だ。
まあ、その方がいい。今は自分に好意を抱いているアルファよりもUboatにいる方がよほどいい。
通い始めてからUboatの意味を調べたことがある。Uボートとはドイツの潜水艦で、それらが使う戦術に群狼作戦というものがあるらしい。それを英語でウルフパックと呼び、狼の群れもパックと呼ぶ……というところまで調べた。
狼の群れ。小規模で、両親と子、それに追随する少数の狼から成るそれを店名に掲げる意味までは知らない。でも、あの店は妻と立ち上げたと零していたから、きっとその意味をなぞっているのだろう。
女性とはそれなりに打ち解けた。岬生がいない隙にまた釘を刺されたが、自分を好きにならない人が好き、だから見ているだけがいいと言ったのが効いたのだろう。今は睨まれもしない、干渉されない関係に落ち着いた。
樹は今日もUboatに足を踏み入れている。あんまり飲まない方がと注意され、今日はりんごジュースを出されてしまった。
「俺だって酒飲めるのに」
「若い内からあんまり飲みすぎるのはよくないよ。それに、たつくんが酔ったらお友達かタクシー呼ばないといけなくなっちゃう」
「1人で帰れるのに」
「駄目です。世間には怖い狼がいっぱいいるんだよ」
狼の岬生を知っているから、誰彼構わず襲うような狼なんていないと知っている。この言葉は比喩で、ただの人間の方が危険だとわかっていながらのそれに樹は敢えて唇を尖らせた。
「狼なんて怖くねーし。この優男」
「いいパパって言ってよ。俺は嫁と息子が何よりも大事だからね、オメガには釣られません」
そのやりとりも何度やったか。その言葉に安心感を覚えていると岬生も理解した上で言ってくれる。
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