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第12話

「あの、帰れますって」 「どうせ明日土曜日だし暇って言ってたでしょ、ならお友達の家にお泊まりするって伝えておきなよ」 「いや、そうじゃなくて」  暇か暇じゃないかではなく、泊まることになっていることもそうだが家に行くことに困惑が止まらない。できることなら今すぐ車から出てしまいたい。でも岬生は聞いてくれない。  アルファの旦那がオメガの男を連れて帰ってきたなんて、嫁が見たらどう思うか。卒倒されてしまうかもしれない、ただ連れて行かれるだけだがちゃんと説明を信じてもらえるだろうか。  少し走ったところで車は停まり、息子を連れて帰ってくると出て行ってしまう。簀巻きにされているバスタオルをなんとか振りほどき、唯一状況を飲み込めるだろう尾上に助けを求めた。 「もしもし?」 「岬生さんの家に泊まることになったどうしよう」 「あの人既婚者でしょ、なんで?」 「俺がアルファにセクハラされてシカトしてたら頭に飲み物ぶちまけられて、それで申し訳ないって」 「岬生さん真面目だもんね、それでなんでそんなに焦ってるの?」 「……好きだからですけど」 「あー……ごめん、そこら辺僕わかんないや。頑張って」  そう答えるなり、尾上は通話を切ってしまう。薄情者め、月曜日会った時どうしてくれようか。携帯電話を握り締め逃げてしまおうか迷っていると、後部座席のドアが開きそっくりな子供を抱き上げた岬生が戻ってきてしまった。 「たつくん待たせてごめんね、うちすぐそこだから」  帰ると何度言っても聞いてくれない。真面目なのはわかっているが、頑固だ。

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