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第25話

 男はずっとついてくる。話は無視して駅まで来てしまったが、最寄駅が知られてしまうのはよくないのではないだろうか。悩みつつ何処かの喫茶店か何処かに入った方がいいか考えていると、見覚えのあるボックスカーが見えた。  気のせいだ。そう思っても視線は奪われる。じっとそれを見ていると男に肩を掴まれた。 「なあ、カラオケとか行こうよ」 「行きませんけど」  下心が丸見えだ。振り払っても振り払っても食らいついてくるそれに何故自分なんかにそんなにしつこく構うのかと冷めた目で見てしまう。  あしらおうにもきっと効かない。アルファの力の前では腕を引っ張られるだけで連れて行かれてしまう。  オメガなだけで、何故アルファに無条件で屈しなければいけないのか。通行人は誰も止めない。走って逃げようにもアルファには敵わない。  脳裏に過るのは、岬生の顔。 「もう、また絡まれてる」  呆れたような声で、困ったように笑いながら岬生が買い物袋を片手に立っていた。何故、ピンチに陥った時に必ず来るんだ。もう会わないなんて決めていたのに、また好きになってしまう。  男の手から樹を奪いとるように引き寄せ、引きつっていた頰を撫でられる。まだ無理に誘われていただけで何もされていない。樹の様子に安心したのか、岬生は頭を抱き寄せ撫でてきた。 「悪いけど、この子は俺の大事な人だからちょっかいはかけないでくれるかな」 「お前、あの時の狼だろ」 「そうだよ。あの時散々嫌がられてたのに、君もしつこい人だね。あんまりしつこいとアルファだろうが嫌われちゃうよ」 「番でもないくせに」  番になってもならなくても、大事な人にはなり得る。それをわからない歳でもないだろうに男は吠えた。  岬生は樹から手を離さないままそれを諭す。 「別に番じゃなくてもパートナーにはなれるし、大事な人って、家族とかも含まれるだろう? ごめんね、この子連れて行かなきゃいけないから」  これ以上は構っている暇もないとばかりに樹を連れ男の前から離れる。否応無しにボックスカーの助手席に乗せられ、岬生が車を走らせるのを見ていた。

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