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第31話

 穏やかで優しい岬生のはずなのに、外れないからと自分を抱き上げ熱が冷めないよう肌を撫で回ししつこいほどに刺激してくるそれはいつもとは真逆に感じる。 「誰が君に好きになっても嫌いになるなんて教えたか知らないけど、狼はそんなことしないって教えるから。大丈夫、夜8時まではいられるからね。お店もよしくんにお願いしてあるから心配しなくていいよ」 「もう、むりだってば」 「若いんだから大丈夫。そうだ、今日もうちにお泊まりして、明日蒼夜とご挨拶しようか。いい子だから気に入ってくれると嬉しいな」  柔らかい毛並みに寄りかからされ、ぐぷり、と溢れるそれが水音を立てる。  こんな意地悪なアルファも知らない。時計を見ればまだ夕方の6時前。これから2時間もなんて身体が保たない。  それでも、番になってしまった今岬生が与える快楽にオメガの身体は抗えない。寧ろ、この溢れる感触でさえ感じてしまう。  自分を好きじゃない岬生を好きになったはずなのに。自分をこんなにも深くまで愛して、消えない関係を結んでくれる岬生の方がもっと好き。  樹は、柔らかい毛並みに触れながら乱れてきた息を整える。 「こんなことしてんのに、子供の話すんなよ。ばか」 「じゃあ後で改めてしようか。今はたつくんがどうすればもっと気持ちよくなれるかの話すればいい?」 「ちが、ばか、やだ揺らすなよ、ばか」  未だ芯を持つそれで刺激するように揺さぶられ、鼻から吐息が漏れていく。  別に、岬生が運命だろうが違おうが別にいい。狼は一夫一妻で、岬生の番は昔も今も1人だけ。亡くなった妻を蔑ろにすることはこれからもしないだろうし、大切にしていてほしいから、本当は彼女が岬生の運命の番だって別に構わない。  自分を好きにならない人じゃなく、自分と亡くなったパートナーを同じだけ愛する人が好き。好きになったら、裏切らないでいる人が好き。嫌われるなんて、こんな深くまで愛されている今は考えなくてもいいことだ。  樹は、何度も頸に噛み付いてくる岬生の愛情も後悔も全て受け入れた。

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