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第2話
リノンにある全寮制高等学園シュリダン。
レイは人気のない音楽室に逃げ込んでいた。
「はっ……はぁっ」
荒く息をついて、床の上に倒れこむ。
昼休み中にレイは体に異変を感じた。
迷うより早く一刻も早く独りになることをレイは選択した。
ついに来たか。
恐れていた発情期 が。
今までも何度か発情期 の兆候はあった。
毎月訪れる突然の発熱や倦怠感。
ここ何ヵ月かは、特に体の異変を感じていた。
保健医のアレクに頼んで強い抑制剤を処方してもらい、それを飲んでやりすごしていたが……。
レイは今18歳だ。
発情期を迎えるのには遅いかもしれない。
あと、2週間。
2週間でこの学園も卒業だった。
あと、少しだったのに。
学園を卒業して進学しても、Ωである限り、捕食される側の立場は変わらない。
男も女も繁殖し、子を産むΩのフェロモンはαの理性を根刮ぎ奪い引き寄せる。
Ωだけでなく、αもまた被害者なのかもしれないが、Ωの当事者はそうも言っていられない。
学校で発情したΩの生徒を、αの生徒たちが寄ってたかってレイプする。時にはΩのフェロモンの影響が少ないβでさえ、あっという間に捕食者の顔に変わる。
そのおぞましい光景を、レイは幾度も目にしてきた。
時にはαにうなじを噛まれ、望まない番にさせられる者も。
だから、レイは首を守るリングを付けていたし、発情期を遅らせる抑制剤も、毎月欠かさず飲んでいた。
レイを探しているのか、廊下の前を幾つかの足音が慌ただしく走り去って行く。
無防備に垂れ流すだけのフェロモン。
αに気づかれるのは時間の問題だった。
特に獣人は鼻が効く。
リノンという街が、人間と獣人が共存する街だけあって、この学園は獣人の受け入れ率が高かった。
人間のαだけでも厄介なのに、獣人なんて野蛮な奴らが増えるばかりで迷惑だ。
頭の中を先ほどからちらちら過 る一人の獣人、保健医のアレクを除いては――。
何故、Ωというだけでこんな目に合うのだろう?
レイはやり場のない怒りと理不尽さに歯噛みせずにはいられない。
ここが最も守られるべき学校であろうとも彼らはおかまいなしだ。
はあっ……熱……い。ち、くしょう……」
逃げるのがやっとで、鍵をかけて閉じ籠ったまでは良かったが、ホッと息をつく間もなく、体が熱くて熱くて堪らなくなった。
特に体の中心が。股間が熱い。
すぐにでも触って慰めてしまいたい。
でも、それ以上にもっと疼いてしかたないのは……。
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