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第4話

「レイ……すまないが、お前を抱くことはできない。私には心に誓った人がいる」 レイは眼を見開いた。 「それに、先生と生徒の間で関係を持つことはできない」 熱を帯びた体が、あまりのショックで、急激に冷たくなっていくようだった。 自己嫌悪で消えてしまいたい。 アレクに抱き上げられて、レイはそのまま寮の自分の部屋に連れて行かれた。 抱きかかえられ、運ばれるレイをいくつもの視線が見ていたが、レイはそんな視線を気にする余裕もなく、深く傷ついていた。 頬を伝う涙が止まらない。 そんなレイにアレクは労るように付き添い、発情期(ヒート)の発作が治まるまで側にいてくれた。 「少し、休め。疲れただろう」 そう言い残すと、アレクは静かにレイの部屋を後にした。 先生に好きだと告白し、抱いてとまで言った。 その直後に告げられたあまりにも残酷なアレクの言葉。 涙が止まらない。 アレクを初めて見たのは入学式の時だった。 獣人に興味を持つことなんてなかったのに、アレクからは何故か眼が離せなかった。 そして、入学してすぐにあった性別検査の結果を、レイはアレクから保健室に呼び出され、直接聞かされた。 Ωだと言われショックが隠せないレイに、その日保健医のアレクは一日付き添ってくれた。 質がよく副作用の少ない抑制剤を使えば、発情期を遅らせることができること。 第二の性について詳しく教えてもらい、学園生活で注意することなど、細かくレクチャーを受けた。 Ωだとしても、これからは時代が変わり、Ωの人権も地位も向上していくから、決して希望を捨てないこと。 そして、レイをしっかりサポートすることを約束してくれた。 Ωの人権を守り、尊厳を尊重するαもいるのだと。 アレクはその時、レイに生きる活力をもらったのだった。 狼の獣人の眼はどこまでも温かで、優しく包まれるようで。 レイは急速にアレクに惹かれていった。 アレクを尊敬し、慕う気持ちが加速し、恋へと変わるまで。 そう時間はかからなかった。 いや、初めてアレクを見た日から。 ずっとアレクだけを見てきた。 何かの運命が動いた。 そう感じるほど、アレクの存在にくぎ付けになった気がする。 歳が親子ほどにも離れた先生が。しかも、獣人の先生を、何故こんなにも好きで好きでたまらないのかわからなかった。 まるで魂が出逢うことを約束してきたかのように。 僕はあなたに出逢うために生まれてきたのではないか? そう信じて疑わなかったのに。 それなのに、淡い恋心は粉々に打ち砕かれてしまった。 レイはベッドの上で自分を抱きしめて丸くなる。 先生には好きな人がいる。 たから、俺のことを抱いてくれなかった。 俺には先生しかいない。 先生に抱いて欲しい。 俺は先生にしか発情しないのに。 レイは泣いた。 泣いて泣いて泣き疲れて眠りにつく。 自分危険が迫ろうとしていることに、レイは気づかなかった。 侵入者たちは音もなく天井裏を伝い、そして、天井の板を一枚ずらすと、また、音もなく壁を伝い降りてきた。 そして、足音も立てずに飛び降りる者も。 蛇の獣人の兄弟と豹の獣人。そして、それによく似たジャガーの獣人だった。 彼らは美しい美貌のレイに前から目をつけていたが、アレクの監視の目もあり、なかなかレイに近づけずにいた。 だが、発情(ヒート)したレイにいよいよ我慢しきれず、レイの部屋に忍びこむことを思いついたのだった。 部屋のドアには頑丈な鍵がかかっていたが、天井裏からの侵入など、狼の獣人には思いもよらないルートだろう。 彼らは侵入の成功をほくそ笑んだ。 獲物はベッドで眠ったままだ。 ぎしりと音を立て、蛇の獣人がベッドの縁に足をかけた。 チロチロと細い舌を蠢かせながら、レイの頬を舐め回す。 「ん……」 くすぐったい感触にレイはゆっくりと眼を開けた。 「ヒイッ」 レイを見下ろす4つの顔にぎょっとする。 蛇とネコ科の獣人。 確か皆αだったはずだ。 彼らが時々自分を見ているのに寒気を覚えて近づかないようにしていた。 それなのに。 レイが飛び起きる前に、一斉に四肢を押さえつけられた。 「レイ。俺たち前からお前を狙ってたんだ」 「アレクの野郎の手前、なかなか手を出せなかったけど、もう我慢できねぇ」 「離せッ、やめろ!」 レイは抵抗しようとした。 でも、元より発情期(ヒート)中の身で力など入るはずもなく……。 精一杯睨み返すことしかできない。 「そう、その目。気の強いお姫様の眼だ。ゾクゾクするんだよ。その眼に睨まれると」 「アレクの野郎とはもうヤッたのかよ?」 ハッとしてレイは固まる。 彼らはレイの沈黙を否定と取ったのか、肯定と取ったのか。 「もしかして、レイちゃんは処女のまんま?」 「これって超レアなんじゃない?」 「発情期で辛いんだろ」 「頭の中はセックスすることでいっぱいだもんな」 一人がパジャマの襟に手をかける。 そのまま下に引き裂かれ、弾けたボタンがレイの頬を打った。 上げかけた悲鳴を誰かの手が塞ぐ。 毛むくじゃらの手はネコ科の獣人の者か? 恐怖とは裏腹に、Ωとしての本能が目覚める。 快楽の予感に体は喜びつつある。 「フェロモンの匂いがキツくなったぜ。やる気満々ってか?」 下品な笑い声が耳奥でこだまする。 『先生、アレク先生!!』 『助けて――!!』 レイは絶望の暗闇に突き落とされた。

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