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第44話 好き、だらけ
――夢、じゃない。
そんな独り言が聞こえて目が覚めた。
郁の声。
僕を起こさないように、でもつい零れてしまったみたいに、呟いて。起きてるのかな。
夢、じゃないよ。
だって、僕の身体の中に郁がいた感じがちゃんと残ってる。昨日、この中に郁がいたんだって、今も、感じてる。指じゃ届かない奥も、孔の口のところも全部、郁としたセックスの余韻がまだあるよ。
「嘘みてぇ……」
嘘じゃないってば。
「……文」
僕は昨日、郁に抱かれた。
郁は昨日、僕を抱いた。
「……」
そっと、郁が身じろいで、頬がじんわりと熱を感じた。郁の、手? かな? そっと、そーっと、なんて、珍しい。
――隙だらけの寝顔晒してると、おはようのチュ―するけど?
いつもそう言いながら起こしてたのに。今、隙だらけの寝顔、晒してると思うのに。
「……ね、郁、おはようのキス、しないの?」
「!」
狸寝入りをやめて、頬を撫でてくれた掌を捕まえて、ちょうど、薬指の根元にキスをした。金属の硬さは昨夜、郁にばかり触れてキスをしていた唇にはやたらと新鮮に感じられる。ピンクゴールドの揃いの指輪。
「はっ? 起きてたのかよっ」
ね? 普段はいっこうに起きないけれど、こんな時に限って起きたんだ。鼻を摘まれることなく。けれど、今日の郁はきっと鼻を摘まんで起こしてくれなさそうだったから。
「……おはよ」
「っ、はよ」
裸の彼の少し照れくさそうな顔。
「っ、文」
昨日、僕を抱いた、恋人。
この手にたくさん撫でられて、イかされて、抉じ開けられた。その指にキスをして指輪のすぐ近くに歯を立ててちょっと齧りながら、チラッと郁の表情を伺った。
可愛いけれど、色気があって。今は十八歳の顔をしてるけれど、昨日、僕の奥深くまで貫いて、突き上げた時は男の顔をしてた。
「どこも、痛くない?」
「ン、平気」
「あんま加減できなかったから」
「ううん。すごく気持ちよかったよ?」
「っ」
僕の、男。
「待ってて。文、少し声枯れてる。水持ってくるよ」
昨日、僕のものにした。
「郁こそ……」
男二人では眠るのに小さいシングルベッド。寝返りの時に落っこちるかもしれないからって、僕が壁際だった。起き上がった郁が背中を向けて立ち上がろうとした。
「ここ、痛いでしょ?」
その背中に残る僕の印。爪を立てて、引っ掻いた痕がいくつも大きな背中に刻まれている。赤く残るその痕に、そっと、キスをする。硬い筋肉が唇の感触に、傷を舐める舌に、少しだけ強張ったのがわかる。
「っ」
「ごめんね?」
「痛く、ねぇ、からっ。それいうなら、文のほうが」
僕にもたくさん残ってる。昨日、郁のものになったっていう印がたくさん、あるでしょ?
見えた?
振り返った郁が眼のやり場に困ったのか、伏せようとするから、捕まえた。だって、まだ、してない。起きちゃったけれど、ずっと寝てたら、隙だらけだったらくれるでしょう? おはようのキス。
「ンっ……」
おはようの挨拶にしては甘ったるいキス。
「郁……」
舌を伸ばして、唇の中に挿入する。
「文、あんま、煽るなよ」
「……」
昨日、たくさん抱いてもらったんだ。ずっとずっと焦がれていた行為はたまらなく甘くて美味しくて、いくらでも欲しかった。
「また、したくなる」
なんで? たくさん、昨日したよ?
「郁」
たくさんしたくなるほど、気持ちよかった。
「今さっき、言ったのに、郁」
「?」
「すごく、気持ちよかったって」
たくさん、したくなるくらい。
「まだ、柔らかい、の……ここ」
「……」
「郁の、ほら、指、入るでしょ? だから」
また、したい。そう告白することはできなかったけれど、代わりに甘い声が部屋に響いてベッドが軋んだ音を立てた。
「あっ、あぁぁっン」
四つん這いになって、腰のところを郁の手が掴んで支えてくれる。
「あああっ!」
じゃないと前のめりになってしまうくらい、郁が激しく奥を攻め立てるから。郁の指に尻を鷲掴みにされて、昨日、たくさん繋がった孔にペニスを突きたてられてる。何度も小刻みに擦られて、覚えたての快楽に朝から喘いでる。
「文」
名前を呼ぶから振り返ると、噛み付くようにキスをされた。覆い被さられると、その身体の密着度に、抱かれてるって実感が増す。
「ン、っ……ン、ぁ、ン」
「すげ」
「郁……」
朝から、抱かれてる。
「もっと、して……郁、ここも、いじって、欲し……っ、ぁ、あぁぁっン」
「文」
バックで、激しいセックスを。
「あっ」
後ろから抱き締められたまま郁が上体を起こして、僕はその広い胸に背中から全部を預けるような格好になった。攻められる度に、自分のペニスが揺れて、それを握り締められたら、身体が切なげに郁にしゃぶりつく。
たまらなく、やらしくて、たまらなく気持ちイイ。
「ヤバ、夢みてぇ」
「……あっン」
「っ」
ね? 夢じゃないでしょ? だから、おはようのキスをした。気持ち良すぎて、そのうなじに爪を立てながら、舌を差し込んで、孔と同じように郁にしゃぶりつく。
「ぁ、ぁ、あ、ああああああっン」
朝には不似合いな卑猥なキスと爪に、郁は笑って、うなじに噛み痕を、くれた。
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