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第51話 赤い膝小僧
郁の、だよ。
「あっ……ン」
この男の子にずっと、ずっと前に、僕の全部は、もうあげたんだ。
「あン」
半露天って呼んでいいのかな。洗い場やお湯を流す場所は屋根の下にあって、出入り口以外の三方向を竹で作った衝立で覆われている。湯船は半分がその屋根の下、もう半分は小さな日本庭園になっている屋外にせり出ていた。
トロトロと少しとろみのある温泉の湯がかけ流しになっていて、綺麗な水音がずっと聞こえてる。
そこに僕の声が混ざる。それと郁の内緒話をするような低い声も。
「……ここ」
「?」
キスマーク、でしょ? さっきの外国人のお客さんが指し示したところ。郁がそこに唇を触れさせたまま、ぼそぼそと低い声で囁いた。
普段だったら、くすぐったいのに。
「少し見えにくいとこに付けたんだ」
「あっ……っ」
今はそこに触れられると火が灯る。
「服の中に隠れるようなとこ、浴衣が肌蹴ないと見えないような、そんで」
「ぁっ」
「女の人ならモデル級に身長が高くないと見えない、男なら目にしやすい位置」
さっきもしたのに。
「付けといてよかった」
「ぁ、郁っ」
お湯が、ぴちゃんと音を立てた。僕が郁の唇に反応して、ピクンって跳ねた音。さっき部屋についてすぐセックスに耽っていたくせに、僕の身体が、また、欲しがって暴れた音。
「郁」
「自覚しろよ、マジで」
「ぁ、ン」
首筋にいくつも、付けてる? ねぇ、ちりちりとした痛みとキスの音がいくつも、してる。
「郁の、だよ」
「ちゃんと」
「僕はまるごと」
「自覚してよ。文」
「郁のものだよ、だから――」
ここのお湯はきっとうちのより熱いんだ。だから、身体がさ、火照って火照ってたまらない。熱が体内に染み込んで、ぼーっとする。
「付けて、いい? 俺のだって印」
湯の流れる音が響くくらい、僕らしかいないお風呂は静かだから聞こえてしまったかもしれない。僕が喉を鳴らした音が、郁に。
「いい、よ」
お湯の熱が身体に染み込んで、熱くて、のぼせたんだ。湯にのぼせて、さっき上機嫌で飲んだ赤ワインに酔ってるからね。
「……文」
「ここ、印、つけて?」
手をつくと、温泉が染み込んだ木の床がヌルリとした。だから、ちゃんと、手を付いて、膝をついて、四つん這いになって。
「すげぇ、エロい」
「あっ……ン」
屋根の下に響く甘い甘い蕩けた声と音。声は僕の唇から零れて、音は、郁の唇が触れた僕の――。
「あっあぁっひゃぁっ! ……ン」
「文」
「あ、ぁっ……やっ……」
すごい場所にキスされてる。こんな淫らな場所を郁の目の前に晒して、あの唇のキスに感じてる。
「あっ、ンっ……郁っもっと、つけて、あ、あぁっ」
カリって、齧られて、痛くて気持ちイイ。郁の口の中、歯にきわどい行為をされていることが、もうたまらなく気持ちイイ。
「も、郁」
「……」
「出ちゃうっ」
恥ずかしいよ。こんな格好をしてるんだ恥ずかしいよ。でも、それよりも気持ちイイのが勝って、ダメになりそうなくらい悦がってしまう。自分から恋しい男にせがんで、お尻を突き出して、キス欲しさに腰を揺らしてしまう。もっとそこを齧ってって。もっとそこにキスをして、印をつけてって。
「文、広げて」
「あっ……」
ごくりと喉がまた鳴った。
ねだられた行為の卑猥さに興奮したんだ。
「あっ!」
自分からさっきまで耽っていた行為でほぐれて柔くなった孔を広げた。僕自身には見えない場所を郁にだけ見せて、そこにも施して欲しいとねだってる。
「出しちゃダメ」
「あ、あっ、や……ぁ、だって」
「ダメ」
「ぁっ、ひゃぁぁっ」
駆け上ってくる興奮をきゅっと指の輪で閉じ込められた。きつく、根元を指で縛るように塞き止められて、興奮が身体の内側で出口を求めて暴れてる。出したいって、この熱を外に出したいって。
それなのに意地悪をする郁の指はまだ、緩めてもらえない。唇は孔にキスをして、舌はまだまださっきまでもっと太い郁のペニスをしゃぶってた場所を柔く濡らしてくる。僕は、身体の内側を走り回る快感に身悶えながら尻を手で割り開いた。
「郁……も」
唾液を拭う仕草ひとつにも興奮して、尻を掴む自身の指が力を込めた。
「……文、寝転がって」
「ん」
床は木でできているから、そんなに冷たいはずないのに、背中をつけるととても冷たく感んじた。それだけ火照ってる。
「あっン」
ねぇ、郁のことが欲しくて、こんなに身体を熱くしてるんだから、膝小僧になんてキスしないで。
「出すなって、言うくせに」
「ここのキスもダメかよ」
「ン、ダメ、出ちゃうっ」
仰向けで寝転がった僕の両膝をくっつけて、郁がキスをした。
「真っ赤」
「あン」
赤いのは膝小僧。好きな人に孔のとこへキスマークをつけてもらうために四つん這いになってたから、赤くなっちゃった。
「郁の」
「っ、触んなって」
手をいっぱいに伸ばして、まあるい亀頭に指で触れた。
「ぁ、早く、郁の、挿れ、て」
「っ」
「あっ」
郁がキスをした。その赤くなった膝小僧に。
「あ、んんんんんんっ」
「文」
「ぁ、あ、あぁぁぁっ…………っ!」
ただキスされただけなのに、郁の舌と唇に濡らされた孔を抉じ開けられながらじゃ。
「あっ…………ン」
塞き止められる精液が内側で沸騰する。セックスの快楽はさっき耽った時以上に濃厚で親密で、トロトロに溶けてしまえそうなほどだった。
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