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第55話 入学祝をくださいな

 もしも、うちの両親が、息子をたぶらかして、と郁に怒ったとしても、僕は郁が好きだよ。  そう言ったんだ。 「あ、っン」  そんなこと言われたら、ヤバいって、怒られた。 「ン……郁っ」  でも、僕だって、郁のスーツ姿、ヤバかったんだから。 「ぁ、ン、もぉっ」  ドキドキ、したんだから。 「もう……何? 文」 「ぁっ……」  自分の指を咥え込んだ、孔が郁の言葉に反応して、物欲しげに口をすぼめた。まだスーツのジャケットどころかネクタイも緩めていない自分の恋人の前で、こんな痴態を晒してる。  ただいまって言って、うちの中に二人で隠れた瞬間、奪うようにうなじに噛み付かれて、興奮して、煽られて、欲情した。 「いじ、わるっ」 「その意地悪に反応してるの、文じゃん」 「あっン」  恥ずかしくて仕方ないのに。甘い疼きに頭の芯が蕩けてく。  入学式が終わって、郁はそのまま各科ごとで連絡事項の確認とかがあった。僕はそれが終わるのを学校の外で待ってた。  その後、デートをした。  スーツ姿の男性二人組はどう見えるんだろう。でも、大きな駅にたくさんの人の中じゃ、そんなのは誰も気にかけないよ。雑貨屋さんをブラブラして、入学祝を選ぶっていうデートをした。  時計? スマホがあるからいい。どっちにしても染色のとかの実技講義が入れば腕時計は外さないといけないからいらない。  ネクタイ? まだ一本あれば充分じゃね? サラリーマンじゃねぇし。  じゃあ、鞄? あるから大丈夫。  服? あるから大丈夫。  じゃあ、手帳? だから、リーマンじゃねぇし。  そう言って、郁が笑った。  そしたら、どうしようかって困って、困って、考えて。  じゃあ! アクセサリー? そう、尋ねるとまた笑って、右手を見せびらかした。  ――これだけでいい。  右手のわっかを、嬉しそうに見せびらかした。 「言ってよ。文」 「ぁっ」  そして、郁がねだったのは。 「文」  僕が欲しかったものと同じものだった。 「ぁ……お願い、も、欲しい」  ――文がいい。  小さな雑貨屋さん。ちょうど、郁が使ってたマグカップが古くてさ。うちに来たときからずっと使ってたものだったから、買い換えてもいいかなって。それを選んでた時に、ぽつりと郁がねだったんだ。  僕は、入学祝いがマグカップじゃなんだか味気ないよねって考えてたところだった。 「何が、欲しいのか、教えろよ」 「っ……ン」  郁のでしょ? ここも。 「挿、れて」  自分から、奥まで郁が来れるように足を広げて、そこを見せた。 「あっ……ン」  郁がいいって、郁のが欲しいって、僕が指で柔く解した孔がねだってヒクついてる。 「エッロ……」 「ン、だって……」  やらしいこと、して欲しいんだから。精錬された身体をしなやかに包み込むスーツ姿が凛々しくて、とても魅力的だった。あのスーツ、すごくよく似合ってた。  ねぇ、入学式の会場にいた誰より、カッコよかったよ。  ドキドキしてしまったんだ。 「郁に、興奮して、もらいたい」  あぁ、この人のことが欲しいなぁって、そう、思ったんだ。 「早く、大きくして。硬いので、ここ、ぐちゃぐちゃにして」  布団がぎしりと音を立てた。旅行から帰ってきて、さっそく買った布団二組。でも、寝るのは大概どちらか片方だ。ベッドは、あまり使わなくなった。だって、二人で寝るには狭いし、寝相が悪い僕は落っこちてしまうかもしれないから。だから、恋人と眠るのはいつも布団。  それに、布団だったら、激しく攻められても、うるさくならないでしょ?  ベッドみたいに軋んでしまわないでしょ? 「ぁ、郁」 「もう、でかいっつうの」 「あっ、ぁっ……」  四つん這いになった僕の腰を鷲掴みにして上から覆い被さるように身体を重ね、耳元で男の色気たっぷりの声でそう囁く。 「ぁ、ああああああっ」  囁いて、とても大きくて硬いペニスで孔を抉じ開けてくれた。 「あっ……やぁっ、ん」 「文、すげぇ、中がきゅうきゅういってる」 「あ、だって、今、出ちゃった、ぁっん、ダメ、郁」  ずちゅりと甘い蜜音がした。 「やぁぁン」 「欲しかった?」 「あ、やだ、中、奥まで来て」  腰を引かれて、抜けかけて、甘えた声が零れた。 「あああああっ……あっ、ン」  奥まで一気に捻じ込まれて、射精の余韻が鈴口から滴り落ちた。 「文っ」 「ぁ、あっ……ン、そこ、ダメ、気持ちイイっ」  身体が指先まで郁のくれる快楽に染まる感じ。足のつま先をきゅっと丸めて、太くて大きいペニスをお尻できゅっと締め付ける。 「ダメ? けど、腰揺れてる」 「あ、あっ、ン、ぁン」 「文、気持ちイイ?」  僕の上に覆い被さりながら、耳元で尋ねられて、ほら、身体が郁にしゃぶりつく。 「ン、も、また、出ちゃう」 「イきそう?」 「ぁっン、イきそ、だから」  首を捻って、背中をくねらせて、腰をパンパン鳴らす恋人に甘えた。額を摺り寄せて、甘えてねだる。 「郁の手で、前も、して」  カッコよかった。すごくカッコよくて、朝見た時からずっと、ずっと。 「郁の手の中でイかせて」 「……」 「イきたい、の」  ずっと、抱いて欲しいって思ってたんだ。 「郁っ」  齧り付くようにキスをして、舌で恋人の口の中を犯しながら。 「あっ、ぁっ、あっ…………っ!」  滴り落ちるくらい、その手の中で射精した。スーツ姿がとても清清しく凛々しい青年に育った、僕の郁の手の中で。  すごくすごくやらしくて、淫らなセックスをしたけれど、すごく、すごく気持ち良くて、幸せで、翌朝、通学初日の朝、キッチンに並ぶ色違いでペアのした新しいマグカップに、二人して照れて喜んで、笑っていた。

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