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第4話

  ◇  最後に覚えているのはヘッドライトの光。  目が眩んだところまでは覚えているが、いつになっても身体への衝撃はなくむしろ暖かい感触にゆっくり目を開けると、目の前に銀色の毛の長い毛布が見えた。  なぜ毛布が? と考えていた矢先に、頭上から声が聞こえてくる。 「レオ、やっと会えたな」  声のする方へ視線を向けると、恒輝は言葉を失った。  夢でみたヴァシュカのような狼の獣人に抱き抱えられていた。  そしてほんのりと甘い匂いが鼻腔を擽る。この匂いは夢で知っている匂いで、そうなれば目の前にいるのは……。 「……ヴァ……シュカ?」  驚いて思わず呟いた言葉に狼の獣人はそうだと目を細め、恒輝を抱き寄せた。 「ずっと探していたのだ」 「な、何を?」 「レオ、お前をだ。お前の匂いを辿ってやっと見つけた」 (レオ……だと?)  するとヴァシュカは愛おしいものを見るかのような優しい目をして恒輝のことを強く抱きしめた。 「この香りは忘れはしない。私とレオの魂の香りだ」  これは夢なのか? 自分は事故にあってこのような夢を見ているのだろうか。 「違う……俺はレオじゃない」  力なくかぶりを振るもヴァシュカには聞こえていないのか、さらに恒輝を抱きしめる。  先ほどから香る甘い匂いでうまく身体が動かない気がしたが、恒輝は力を振り絞りヴァシュカの胸を押し返した。だってこの腕の中はレオのもののはずだ。 「俺はレオじゃない」  力任せに押し返したものだからバランスを崩して床に倒れ込む。 「レオ!」 「だから俺はレオじゃない」 「何を言ってるのだ」 「それは俺が言いたいよ!」 「……まさか、私を忘れたというのか」  そんなやりとりの間にも甘い匂いがどんどん濃くなっていく。  その匂いが強くなるにつれ、恒輝はまためまいをおこしそうになった。その上、どんどん内側から熱を帯びていくような感覚に身体が熱くなっていく。 「なに、これ……」  ヴァシュカに見つめられるだけでクラクラする。  目が合うとより匂いが濃くなった気がして、全身の神経全てが支配されるようで動ける気がしない。  それが急に怖くなって手で遮ると、ヴァシュカが恒輝の手首を掴んだ。 「嫌だ、離して……」 「レオ、教えてくれ。お前は私を忘れたのか」  ヴァシュカは悲しそうな目を向け恒輝を問いただす。そんな目を見ていると恒輝まで悲しくなるが、その間もどんどん強く香る匂いに動悸までしてきた。  息苦しい。呼吸がだんだん小刻みになり、指先が震え始める。視界も揺れる。 「知らないよ。俺はレオじゃないんだ。ヴァシュカとレオの話は夢でみた話だと……」 「夢だと?」  もう一度ヴァシュカの腕を払うも、またその腕を掴まれて目が合った瞬間、恒輝の身体はさらに熱が上がった。 「はッ……」 「レオ、どうしたのだ」  自分はどうなってしまうのだろうと恒輝は言い知れぬ不安にかられかぶりを振ると、ヴァシュカは狼 狽えた声を上げた。 「ハク! こっちに来るのだ。レオの様子がおかしい」  腹のあたりがとても熱い。そこからどんどん身体が熱くなっていく。熱が溜まっていく感覚が苦しくて、思わず吐息を漏らすとヴァシュカは悲しそうな目をして恒輝を見ていた。  また香りが強くなる。頭がくらくらする。  この花を煮詰めたような甘い香りはどこから発されているのか。強くなれば強くなるほどに、めまいはひどくなり下腹あたりがぞわぞわするようでーー欲しい。何かが、欲しくて欲しくて堪らない。  そんな思いだけが恒輝の頭を支配していく。

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