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第5話
訳もわからず下腹を抱えながら悶えていると、小さな狐の獣人が視界に現れた。
「な、何……」
ハクと呼ばれた狐の獣人は身体がすっぽり隠れるほどの深緑色のローブを纏っていて、恒輝の腹に手をかざし緑色の円形の光を放つ。
その光に驚いて暴れるとヴァシュカは恒輝を抱きしめた。
「安心しろ。ハクは内なる気を操る魔法師だ」
魔法師ってなんだ。と頭の片隅にはよぎるものの何も理解できない。
しばらくすると緑色の光が消え、ハクが目を開けた。
「おそらく、レオ様はヴァシュカ様のフェロモンにお体が反応しているものと思われます」
「ヒートだというのか? 確かにレオからは甘い匂いがするが、それがヒートだというのなら私にはその反応はないが」
「はっきりとはわかりませんが、ヒートとは別物かと。レオ様がおられた世界には第二の性がなかった可能性があります。この世界に召喚され身体が順応しようとして、ヴァシュカ様のフェロモンに反応しているのかもしれません」
するとヴァシュカが深刻そうに恒輝のことを見た。
「ハク、もう一つ気になることがある。レオは自分はレオではないと言っていた。しかし私の名を呼んだのだ。……記憶がないのだろうか」
「それはきっと兄の方が詳しいと思いますが、星神のまじないも完全ではありません。転生すると記憶がなくなるという説はありました。おそらくそれは本当なのでしょう。しかしお二人の強い絆で部分的に覚えていらっしゃったのでは」
殆ど何の話をしているのか恒輝は理解できなかったがハクと話し終えたヴァシュカは少し寂しそうにしながら恒輝に近づいた。
「レオの記憶がないのか?」
香りのせいでぼんやりしている頭では考えることも億劫になってきて恒輝は頷いた。
「そうか。では、名は何というのだ」
「……こう、き」
「コウキか。私はヴァシュカ。コウキの魂の番だ」
「たましいの……つがい?」
ヴァシュカはそうだと言いながら身体に触れた瞬間、焼け付くような熱さを感じたと同時にどうしようもなくそばに来てほしいと思った。
しかし自分がなぜそのように思ってしまったか頭で理解することは難しく、まるで心と身体が別々の生き物のようで混乱した。
「……っ」
「苦しいか?」
ヴァシュカの声が響くたびに感情がコントロールできずにただただ欲しいとばかり考えてしまう。
自分はどうしてしまったのか。なぜこんなことになっているのか。そもそもここはどこなのか。聞きたいことは山程あるはずなのに全てをかき消されて目の前に見えるのは一人だけなのだ。
そのとき、身体が思わず反応した。
股の隙間から何かがどろりとこぼれ落ちた気がして目を見開いた。
「やっ、な……なに……」
情けない声を上げ、すがるように腕を掴むとヴァシュカは恒輝を抱き上げた。
「ハク、人払いをしろ」
「は、はい!」
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